第263話 反魂 ②

「病没の子供たちですか」

「そうだ。惨いが子供を捧げ、弱ったところを祭祀と共にシュランゲにある神の石に封印したという。

 村に行ったのなら見たであろう?

 蛇の鱗をまとう石だ。

 あれは地母神の尾である。

 夏至の祭りの起源は、そこからだ。

 それも長い年月にすたれた。

 ひとつ誤解があるようだが、アレをあがめているわけではない。

 我らとシュランゲの者達が神としていたのは、地母神の子である羽の生えた白蛇の事だ。

 その白蛇が化け物に喰われた子供らと共に、あの神の石に閉じ込めている。

 祭祀はそれを慰め、我らは土地を守る。

 そして、眠る祟り神が漏らす言葉を受け取り約定を確かにする。

 この言葉は、夏至に顕現けんげんしようとするアレを留める為の行為だ。

 それを溜めて金属と溶かしあい利用する。

 そうしなければ、毒は無秩序に土地に広がり、結局は滅びる事になる。

 利権を囲い込むと同時に、我らは散逸を防いだのだ。」


(呪詛の中和だね。

 そして補足だ。

 地母神も祟り神も、そして小さな白い蛇も、神は神だ。

 例え、この地に堕ちて魔になってもね。

 そして魔を、魔、たらしめるのは人の所為なのさ。)


 神々は在ると?


(君は在ると侯爵に言ったじゃないか。

 なら宮の主以外にも、在るのが当然じゃない?

 それに君は白い小さなお友達を知っている。

 これが全部、君の夢だというのなら、現世で苦しむ意味もなくなるだろうさ。)


「と、口伝を領主頭領として伝えられていたとしても、我の現実は人の世の事柄で手一杯だった。

 狭量きょうりょう故に、因習の世迷言よまいごとよと半ば否定してきたのだ。

 シュランゲで作り出される物を受け取りながらも、これは昔語りで利権を秘匿ひとくする為の事である。と、半ば言い聞かせていた。」

「何故ですか?」

「己が冷血であると認めるのは、この我とて中々辛いものがあるのだ。

 冷血である証明が、エリという子供だ。

 シュランゲが作り出す特別な加工品には、特別な血が必要となる。

 我が氏族からシュランゲに入った血だ。

 その血を神の石から取り出したモノと混ぜ造る。

 混ぜ造る時に、毒で死なぬように薬を飲む。

 それにも血が必要だ。

 エリという子供の前にも、幾人もの子供が生まれては、大人になる前に死んだ。

 わかるであろう?

 如何な長命種の先祖返りでも、血を絞り続けていれば大人になる事無く、弱って死ぬのだ。

 だから、せめてもと暮らしを援助する。」

「あのような先祖返りが産まれる頻度が高いのですか?」

「いいや、そもそも長命種の出生率は低い。

 低い上に他種族の血が混じれば、戻る事は難しい。

 今でも直系をシュランゲと縁組ませるようにしている。

 もし、あちらの子供がいなければ、アイヒベルガーの赤子を代理で出す事になるだろう。

 ただ、そんな記録はない。

 必ず、途切れること無くシュランゲには、先祖返りが産まれ続けている。

 これももしかしたら、祖の約定で産まれやすくなっているのかも知れぬな。」


(これがあの女が激怒し、殺意を抱く理由の一つさ。)


 聞きたくなかったな。


(大丈夫さ、これは彼らのお話だ。

 君のお話ではないんだよ。

 だから、不必要に傷つかないでね。)


 うん。

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