第415話 木の葉の船 ⑦

 私の衣服の貧しさは、フリュデンに残る私物が届かない事が理由である。

 とは言え、大層な荷物ではない。

 手配した物が届かないのも、きっと少量の荷物があの騒ぎで何処かへ紛れてしまったからだろう。

 そこでこのあたりで、生活に必要なもの全てを揃えようという話になった。

 私としては、何も不自由がないので、身支度用の歯磨きと髪をまとめる物と櫛があれば、誰のお下がりであろうといいのだ。

 教会の寄付で集められた古着で十分である。

 と、主張したら皆に何故か詰め寄られた。

 冬の雨を避ける外套ぐらいは作らなきゃとビミン。

 外出の機会を得たのだから、今度こそ新しいものを揃えましょうというのはクリシィ。

 医者の前に仕立て屋へ先に寄りましょう。と、ニルダヌス。

 話がどんどん進んでいく。

 あぁうぅっと、私がうめいている間にそんな流れになっていた。


(そりゃぁねぇ。

 巫女装束は仕立てから立派で忘れがちだけど。

 それだけというのはまずいのさ。)


 何でまずい?


(あれ?

 気がついていないのかい?

 君は誰の庇護下にいると思っているんだい。

 君の保護者は今の所、3つの派閥?だね。

 一人は、君が守ろうとしている馬鹿な男だ。

 次に、今こうして庇護をしている神殿の男だ。

 最後は、君に忠実な大公血族の下僕だ。

 いずれも金持ちで、自分の庇護下の者に不自由を強いるような男達ではない。

 よかったねぇ。

 それが孤児よりも物を持っていないのは、流石に外出制限が解かれた今では許されないよ。

 だから、この巫女は気がついて慌てているのさ。

 いつの間にか、君を本当の巫女見習い。自分の教え子だと思っていたようだ。

 質素倹約を貴族子女に最初に教えるからね。

 あれ?ちょっと嬉しそうだね。

 そうか、そうか。

 本当の弟子と同じ扱いが嬉しかったんだね。

 でも、まぁ君は観念して服と小物を揃えなよ。

 僕だってびっくりの清貧さだよ。

 えっ?

 オジサンうるさいよ。

 あぁ、そうか。

 そうだね、荷物、させなきゃね...)


 保護者にとって、私の服うんぬんはきっとどうでもいいような気がする。

 だが、面倒を見ている彼らの手落ちとされるのは、私としても不本意だ。

 ならばと、ニルダヌスに連れられて、最初は服屋に行くことになった。

 同行するビミンの祖父、ニルダヌスは、亡くなった神官の最後を看取っている。

 彼は風邪を拗らせている私が心配なのだ。

 そんな彼だ、ともかく私の病気を治し、暖かな装いをさせることを一番の命題とする覚悟である。

 彼は私の同意を得ると、手早く馬車に放り込み連行した。

 正しくその手並みは憲兵が犯罪者を引っ立てる素早さであった。

 そして気がつけば服屋の主に手渡されていた。

 手渡しだ。

 荷物のように両手でひょいと運ばれ、店主の女性へ。

 手渡す笑顔のニルダヌスも手渡された笑顔の女主人も、獣人である。

 この扱いに覚えがある。

 獣人とは、皆、子供をひょいひょい手荷物のように扱うようだ。

 確かに片手で持てるなら、これが早いのだろう。

 カーンに引き続き、赤ちゃんではないのだ!と、いう主張をすべきか、しばし悩んだ..が、無駄な気がしたので黙ることにした。

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