第555話 さぞや...と、老人は言う ④

 墓守達の傍から離れると、私はカーンに降ろしてもらう。

 これからどうするかの話し合いに、私は必要がない。


「出立準備ができたら呼ぶ。」

「わかりました。」 


 墓を見るために、岸辺を歩く。

 角度によっては石柱が邪魔なのだ。

 本当は、その変化する美しい造形と自然を楽しむのだろうが。

 そんな事を考えながら、水辺の近く、光りを受けて輝く墓を見る。

 護衛はザムが戻り、背後に立っていた。

 彼は葦原を見回し、背後の藪の気配も探っている。

 手間を掛けさせているが、ひとり歩きまわるほど愚かではない。

 愚か、か。

 彼らは墓にて罰を受けた。

 と、しよう。

 それとは別にこの世の事だ。

 当然、彼らはコルテス人を名乗っていた。

 獣人の集団と遭遇し、今、ああした姿になっている。

 このままだと、要らぬ誤解が発生するのは目に見えていた。

 放置は論外。

 我々に落ち度はないのだ。

 放置すれば、要らぬ誤解の生まれる隙もでる。

 簡単な選択肢は、コルテス人を砦に運び込み、公爵の方へと連絡する事だ。

 だが、これも連絡が途絶しているので、砦から改めて使者を派遣する事になる。

 その間に、彼らが死ねば、結局は面倒事になる。

 そもそもこんな得体の知れない代物を、城塞内に運び込めるのだろうか。

 取れる選択肢があまりない。

 道義的にも、ここで人族を獣種が見捨てたなどという話になってもいけない。

 獣人を卑賤と蔑む土地では、行いには細心の注意が必要だ。

 もちろん、そんな事は関係ないと強硬な態度でもよいのだが。


 岸辺から振り返る。

 そんな相談をする者達。

 カーンは仲間と話し合いながら、私の顔を見返すと眉を顰めた。


 面倒事が山積だ。

 中央軍の獣人兵を率いる彼は、常に、いらぬ差別を向ける輩に態度で示さねばならぬ。

 我々は他者を蔑まねば生きて行けぬ矮小な者どもとは違うのだ、と。

 正直なところ、私を砦に返したいとも考えているだろう。

 しかし人数を割る事も避けたい。

 中々に悩ましいところだが、彼もコルテスの現地民と一度話がしたいと考える。


 今、何がおきているのか。

 この墓守は何者なのか。

 コルテスが自ら鎖領しているのか、何か異常があるのか。

 もちろんコルテス内地へと、探索者は放っているだろう。

 だが、直轄地周辺でもこのありさまだ。

 この墓参りついでに周辺の村に入っても良いだろう。

 手土産もできたところだ。


 等という思考が読み取れた。

 断片の情報に、墓守達、どうせならこの消化不良の状態に区切りをつけたい。

 だから私がいる影響、多少の危険には目を瞑る事にしたようだ。

 そうして話し合いは終わり、 城塞に向かうユベルノートの駆ける姿を見送る。

 私達は、コルテスの森へと続く道を進む事となった。

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