第380話 幕間 牢屋にて ⑥

「今暫く、面会は無理だ。

 彼女自身の健康を取り戻す為もある。

 文句は受け付けない。」

「私の館で静養すればいい。それでも不満があるなら、数ある支配地のひとつを静養場所に提供しよう。」

「ああ、いいぜ」

「おいっ!」


 ここに来てやっと口を開いたカーンに、ジェレマイアは肩を竦めた。


「ただし、彼女自身がそれを良しとするならばだ。

 無理強いをするなら、俺が敵にまわる。

 俺が敵にまわる意味を考えろよ。

 まぁこんな脅しなんぞより、小さなお嬢さんが納得する訳もない。

 あぁ見えて、巫女頭の婆さんと気が合う子だ。

 真面目で頑固一徹、見た目と違って馬鹿なお前らより大人だ。」


 それにコンスタンツェは薄気味悪い笑みを浮かべ、カーンは口元を引き曲げた。

 緩みきったコンスタンツェと違い、カーンは少女の人となりをそれなりに分かっているだろう。

 子供らしさの無い真面目くさった様子が思い浮かんだようだ。


「そもそもコンスタンツェ、お前の体の変化を調べなければ釈放はしない。

 王家の医者、神殿医、それに軍医か。

 情報共有の後、前代未聞の審判官の異端審問だ。

 まぁ俺が保証人になるだけの話だがな。

 それが終わらなきゃ、無罪放免にはならん。」

「どういう事だ」


 三者の疑問に、ジェレマイアは続けた。


「腐土領域でも、人間の変異が認められている。

 お前の変化が、それとは違うという証明をしなければならない。

 疑惑を先に晴らすことが、重要なんだ。

 つまり今現在も、腐土にて影響が拡大しているってことだよ。

 カーン、お前のところには直接、被害報告がいってるからわかるだろう?

 緩衝地帯でさえ、発狂する者が増えているってな。」


 それもあって、トゥーラアモンの後始末後、ジェレマイアは東南の監視地域に行くことになっていた。


「コンスタンツェ、よくよく聞けよ。

 お前の肉体が変化したのは、腐土とは関係がない。

 お前は、誰にも会わなかった。

 腐土もボルネフェルトも関わりがない。

 神の具などは存在しない。

 いいか?

 誰も何も存在しない。

 お前は病平癒の祈祷を願い、無理やり神殿に入り込んだ。

 そして騒ぎを起こしたために、罰を受ける。」

「否定しろと?」

「彼女の為だよ。

 俺はお前の変化が神の具によるものだと理解している。

 神の具、グリモアの存在を世間に知らしめてはならん事もだ。

 グリモアはな、いなければならないんだ。

 あれはな、彼女を殺してでも奪おうと考える輩がでる代物なんだ。

 そしてグリモア抜きの場合も、彼女の存在を明らかにしてはならない。

 カーンには言ってあるが、彼女はな世間で言う珍しい種族だ。

 誘拐。

 腐土がらみで実験体。

 軍も中央政府にも知られていいことが浮かばん。

 俺の苦労がわかるか?

 神殿に隠した理由が想像できないか?

 お前個人の能力や資産がいくらあっても、一人では守れないんだよ。」


 ジェレマイアは視線をそらすと心の中で続けた。


『朧げながらも手がかりが揃い始めた。

 絶対に逃してはならない。

 失われた過去への鍵だ。』

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