第239話 英雄は来ない 中 ①
サーレルにとって、私は疑わしい存在だろう。
辺境の子供にしては異質である。
確かに、私は怪しい。
と、自分でも同意する。
そんな私をワタシが笑う。
だが、グリモアという謎の力を死者の宮の神より受け継いだ。等と正直に話すつもりはない。
私だって怖いのだ。
「何者と言われましても、私は普通の村人、狩人ですが」
「少なくとも、貴方のような普通の子供を見たことがないですよ。
昨夜の状況での立ち回りも、そして貴方自身の言動も、どこが田舎の普通の子供でしょうか」
「だとしたら、何です?
元より、旦那方が私を雇ったのが始まりです。
無礼な部分はお詫びもします。それこそ礼儀知らずの世間知らずとご容赦願いたい。」
「ほら、その辺の洟垂れ小僧なら、そんな年寄の言い訳めいた口調が口から飛び出してはきませんよ。」
「私は拾われ児で、その年寄り育ちなんです。
加えて、私が旦那方に雇ってくれと願い出たんじゃないことを思い出してくださいよ。」
「わかっていますよ、だから、聞いているんですよ。
まぁ貴方が幼子ではないとはわかっています。
子供のような姿の種族、それか成長に時間のかかる珍しい種族なのでしょう?
それにそのお顔の入れ墨は何でしょうか、とても美しい花模様ですが、手彫りとは思えません。
蛮族の入れ墨や我々の戦化粧とは別物ですね。
そのような技巧は見たこともない。
言葉も知識も、田舎の辺境地にしては行き届きすぎています。
なのに、カーンも何故かゆるく対応している。」
「私は生まれてこの方、村から出たこともない。ただ」
「ただ?」
「私は拾われ児、年寄り達に拾われ育てられました。
御領主の御厚意で教育も施されました。
私が外に出ても、生きて暮らせるようにとの温情です。
拾われた土地が良かったのです。
私の故郷の方々は、私を殺さず、売らず、育ててくれました。
あの狩人達が私の家族で、御領主の方々すべてが慈悲を与えてくれた恩人なのです。
私が異質に見えるのは、きっと元からの生まれの所為と思います。
そしてカーンの旦那は、変わり者がお好きでしょう?旦那も変な人ですから」
それにサーレルは確かに、と、言って笑った。
元より答えなど期待していないのだろう。
勝手に調べるだろうし。
私はお茶をもらうと、一口飲んで、何から話そうかと考えた。
(急がないとね、ここでの惨事を防いだ事を忘れていないよね。
その分、より実体は強固になり、飢えて怒りに満ちているだろう。
シュランゲの婆の見積もりに足りないって事だからね。
もちろん死者は怒っていないよ。
怒り狂っているのは、神だ。
さぁ、すこし急いで感化を行うといい)
感化?
(知識という免疫を与えるのさ。
より認識の彩度を上げてしまうのは、考えものだけれど。
..嫌がらないでおくれ、少し現状を教えておかないと、彼らが死んでしまうだろう?)
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