第209話 明日は来ない ②

「侯爵の弱みを握ろうとしたが失敗した。

 もそこで気がついた。

 元々、成功なぞしない話だったのだ。

 今更、だよな。

 やっと気がついた。

 の目的をな。

 反乱なんて、最初からどうでもよかったのさ。

 それに乗じて、手に入れたモノを利用したかっただけだ。

 ウソつきの屑からしてみれば、毒なんて目的への手段に過ぎない。役に立たないなら、それでもよかったのさ。

 はした金で研がせて回り、他は砕いて新しく刃物に練り込みもしたのは、侯爵への当てつけだ。

 もがき苦しむ姿がみたかっただけだ。

 ねたみやひがみ、くだらないウソつきの考えが元だ。

 それを手伝った奴らの腕が腐り落ちて、やっと諦めた。

 皆、死んでから気がついた。ざまぁないね」


『うーでがぁ落ちてぇ鼻がもげてぇ、のたうち回ってしんだのさぁ。

 それをみてぇ、馬鹿はぁおびえてにげたのさぁ。

 ウソつきはぁわらってるぜ。

 俺もわらってるぜぇ、あぁ腹がいてぇ』


 二つの笑い声が闇に響いた。


 シュランゲの呪術師は、あの日も村人に薬を配った。

 仕事をしても大丈夫なように。

 薬を呑んで、呪術師の言う通り仕事をすれば、金属と毒は混じり合い、有用な物になるのだ。

 村人はなんら疑う事なく、仕事を始めた。

 ところが、あの日の薬は同じ味なのに毒を中和しなかった。


「なぜ?」


『きーまってらぁ、ウソつきが、ウソの薬をつくったのさぁ。

 おかげで、むらの男はぁみんなぁぶったおれたのさぁ

 そいでぇーうらぎりものはぁ

 倒れたやつらをぉおとりーにぃしたのさぁ』


おとり?」


 村には当然、秘密を外に出さない仕掛けがある。

 もがき苦しむ男達を。その仕掛けに殺させる間に、裏切り者は逃げる算段だ。


「女や子供達に、何故、あんな酷い仕打ちを?」


 ふらふらと歩く背中は、笑った。

 笑い泣いた。


『みんなぁよくをかきすぎたぁーだけさぁ。

 俺をみてみろよぉ

 地獄にもいけねぇ

 ずーっとずーっといてぇんだよぉ

 しねねぇんだよぉぉ』


「反乱を名目に、外部勢力と手を組んだ。

 彼奴の氏族も一枚噛んだ。

 村の中にも、外へ出たがった奴らもだ。

 皆、村をうとんでいた。

 本当は、金も何もかも後からくっつけた理由だったんだ。

 閉鎖的な村が嫌だった。

 秘密に心が押しつぶされたんだ。

 だから、たった一人の嘘に騙された」


『たーだ、奴らはぁ勘違いしてたんだよぉ』


「勘違い?」


『ひみつにぃしてたんじゃぁないんだよぉお』


 腐れた姿は笑い、灯りを揺らした。


『今頃、死ねずに悔いているよ。はやぁくはやぁく死なせてくれってよぉ』


「理由は囮にされていた男達と同じだ。

 女達が生きている限り、井戸で誰かが息のあるかぎり、

 アレは、村を離れないからだ。」


『そーの娘がぁ、生きているうちはぁ

 逃げ出せばぁにげきれるぅうとぉおもっていたのさぁ。

 ちゅうとはんばなウソつきはぁ、さいごまでクズなのさぁ』


 イヒヒと笑うと男は歌った。


『俺のーあしたはーこないぃいぃ

 あのウソつきのあしたもぉーこないぃい

 みんなぁーばばさまぁのぉ

 わのなかでぇおどるのさぁー』

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