第614話 花が咲く ⑨

 核心には届かない問答。

 だが、言いたいことはわかる。

 構造は単純だ。

 誰かが、誰かを呪った。

 目的はわからない。

 破綻や破壊かも知れない。

 たくさんの命を使って、呪った。

 けれど呪う者は、自分だけは呪われたくない。


 それが生贄への冒涜をする理由の一つなのだろう。


 呪術者は反動を抑えるべく生贄や対価を用意するのは当然だ。

 だが、当然としても呪うという行いには、ある程度、己を差し出すのも当然なのだ。

 呪えば呪われる。

 故に、理を曲げる呪いを呪術者は扱わない。

 難しいことだが、術によって好き放題できる万能の力ではないのだ。


 生贄に人間を使うという事は、その人間に恨まれるという意味でもある。

 供物が自ら捧げるとしても、そこに無念の思いを混じらぬようにする事は至難だ。

 それが生贄ともなれば、ここで言う生贄とは無理やり命を奪われる者の事、恨みつらみが残るであろう。


 その恨みつらみ、悲しみを増大させる行為をした上で、殺害している。

 わざわざだ。


 怨嗟を求めるかのように、残虐非道を行う。

 穢を大きくする為だ。

 だが、それを自分たちに向けられるのは、嫌だと逃げた。


『そうだよ。

 恐れたんだ。

 術を完成させる為、ともかく残酷な死を与えようとした。

 そして、この場所に縛り付けたかった。

 ただし、自分たちの罪は問われたくないし、呪われたくもない。

 神官や巫女が辿り着いて、罪の在り処を探した時に、逃げられるようにしたかった。

 それに不死の王の術からの返礼も受け取りたくなかった。

 まぁお花が迎えに行ったけどね。』


 縛り付ける、やはり、この場所が問題なのか。


『その子供を丸ごと生き埋めにしたのはね、子供の声のほうが届くからさ。

 神も人も、動物でさえも、子供の泣き声は耳に届く。

 鎮護の道行きは、水の流れをたどるようにして巡っているけれど、この館は含まれていない。』


 子供の霊を呼子にしているのか。


『僕達の怒りの理由がわかるかな?』


 胸に灯る怒り。

 卑怯者め。


僕はねボルネフェルト、自分が悪い事をしていると理解していたよ。

 人でなし、人殺し。

 僕は罪人なんだ。

 理由があっても言い訳はしない。

 僕は頭がおかしいけれど、恥知らずじゃないからね。

 今、ここに宿るは、神の慈悲だって事もね。

 当然の罰であり、許される事が無い。

 それに僕は、臆病者じゃないからね。

 誰かの命を握りつぶすなら、自分の人生もきちんと握りつぶしたよ。

 供物の側にて、こうして無駄口を叩いているのも、その罪の償いのひとつさ。


 呪うとは、呪われること。


 でもね、この未熟な術を使う輩はね、責任も義務も負うつもりがない。

 奪ったら、奪われるのが当然なのにさ。

 嫌だというのなら、それだけの価値を示さないとね。

 悪行にも覚悟がいるのさ。

 誇っているんじゃないよ、ただねぇ。

 こんな間違いだらけの術にさ、大勢の命を使ってやる事がこれ?

 美しく完璧な術式に泥を塗って、人間の命ごときで贖うと?

 支払いもできぬ卑しい輩が、この理の中オルタスで生きて息を吸い存在する?

 図々しいと思わないかい?

 こんな輩は、お花の養分になるくらいしか価値が無いと思うんだ。』


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