第160話 中原の魔物 (上)
領主は、いなくなった者を追わなかった。
貧民を追い払ったぐらいの考えだ。
これで青毛の馬は、丸ごと手に入ったと喜んだ。
そこで最初に領内で馬を扱う者たちに、青毛馬を捕らえてこいと命令した。
でもさ、遊牧の民が青毛馬を育てて売っていたけれど、それは彼ら以外、難しい事だったからだ。
彼らが他の人の商売を邪魔した訳でも、独占していたわけでもない。
できなかったから、皆、手を出さなかった。
そんな事情を斟酌しない領主は、地元の家来衆に命令する。
青毛を捕らえて早々に献上しろってね。
領主の指示だ。
家来衆や領民は頑張った。
ん?
どんな風にかって、今までどうりだ。
馬を追いかけ罠をはった。
でも皆、素人だ。
馬を扱う事はできても、名馬の王が率いる青毛馬には歯が立たない。
結局、怪我をしたり怖い目にあって、捕まえることができなかった。
領民や地元の家来衆は、早々にねをあげる。
だって、彼らは知っていたからね。
何を?って、青毛馬の王が本気を出したら、恐ろしいことになるって。
草原から消えた遊牧の民と同じく、彼らだって同じ土地に暮らしているんだ。
名馬の王は、馬の姿を真似した神様だって、心の奥底では信じていたんだ。
誰だって、神の怒りに触れたくはない。
「神罰は、犯した罪と同じ重さで返ってくるって考えがあるんだ。
名馬の王が怒る事は、馬が傷つけられた時だ。
それも女や子供が傷つけられたら、怒る。
当たり前だよね。
でも、それなら罰はどこに向かうと思う?」
お菓子を齧るエリの口がパカッと開いた。
あっ!って感じ。
「領民や家来衆は、自分たちの行いで、自分の家族に災いがふりかかる事を恐れたんだ」
なるほどという感じでエリが頷く。
もう一枚、菓子を渡しながら、私は少し考えた。
この話は、あまり気分のよくない事柄がおおく出てくる。
全部、話したものかと迷わなくもない。
まぁきりの良い部分まで話そうか。
これは昔々の話だ。
***
では、そんな信仰を知らない新しい領主と兵隊たちはどうしたか?
役にたたない領民や地元の家来衆の言い訳に憤慨すると、自分たちで馬を捕まえる事にした。
たくさんの兵隊とたくさんの武器をもってね。
多少傷つけてもいいだろうと、馬狩りとばかりに繰り出した。
彼らは馬を追い回し、群れをみつけては武器で傷つけ捕らえた。
斬りつけたり、殴ったり、痛めつけては大きな囲いに追い込んだ。
酷い話だよね。
それを見て、領民は恐れた。
囲いには、子馬や牝馬までいたからだ。
彼らを止めず口も出さなかった自分たちも、名馬の王に殺されるのではと、恐れ慄いた。
エリは眉を寄せて、続きを促した。
表情が読みやすい。
私は少し笑いながら、茶を呑んだ。
その時、男達が宿屋に戻ってきた。
窓際の私達を見つけると、カーンだけこちらに来た。
大きな男達で、室内が急に狭くなった気がする。
「おう、ちびっこの知り合いをみつけたぞ」
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