第205話 夜が来る ②

「グーレゴーアは何処だ」

「貴方は卑怯だった。

 だってそうでしょう?

 自分だけは答えを知っていた。

 二人とも、いいえ、私を含めれば三人とも道化どうけに見えたことでしょう。

 貴方は知っていたのに黙って、私達をわらっていたのね。」

「彼は無事なのか?」

「知らないわ。

 だって、私は本当に知らないもの。

 貴方が殺したんじゃないの?

 兄弟全部殺せば、残るのは貴方だけ。

 今となっては、正当な息子は貴方一人。

 偽物とは違う」

「馬鹿を言うな、私は」

「相変わらずご立派ね、ライナルト卿。

 自分だけ欲のないふりをして、無様に足掻あがく兄弟たちを嗤っていたんでしょう?」

「どうとでも言え。

 グーレゴーアと付き従う者達はどうした。

 今ならば、まだ、許しが得られる」

「何の許しかしら?

 私達が何をしたというのかしら?

 むしろ、貴方のほうが何かを企んでいるのではなくて?

 そうでしょう?

 いつも良い人のふりをして、侯爵の機嫌をとり、いつのまにか自分に近い氏族ばかりで回りを固めた」

「違うだろう。

 お前たちが食いつぶした分を埋めているだけだ。

 古いやり方だが、それが必要な理由もあるのだ。」

「そうかしら?

 だまし討をするのはそっちではなくて?」

「反乱の用意をしている訳ではないのだろう?

 あれの動きはそれではない。

 人を集めたが、その人は何処に隠した?

 物資もだが、お前たちは何をしようとしている」

「ご立派な貴方は、未だに私達を上から見下ろしているのね」

「どうしたんだ?

 お前たちは、どうしてしまったんだ?」

「どうもしていないわ。私達は変わっていない。

 貴方はいつも何も目に入っていない。

 私を馬鹿にしているようだけど、それは侯爵も同じね」

「皆は、どこだ?」

「知らないわ。だって、私は知らないもの。

 誰をお探しなのかしら?

 何をお探しなのかしら?

 まぁいいわ、どうせ、皆、思い知るのだから。

 ねぇ、あの人が死んだ時、貴方、わらったでしょう?

 ねぇそんなに嬉しかったの?」


 会話の流れに焦る。

 早く立ち去ろうとして、私は物音を立ててしまった。

 扉が開かれる前に、私とエリは逃げ出した。

 廊下の角を曲がる時、目の端に扉が開くのが見えた。


 ラースがライナルト。

 ライナルトは侯の息子?

 開いた扉から、男は私を認めた。

 私達は一瞬、目があった。

 彼は、追わなかった。

 ただ私を見て、扉を閉めた。

 暗い目だけが、背中に刺さる。


 夜ごと訪れる者が囁く言葉が思い出される。

 あぁ心配だったのだ。

 残された者を思いやっていたのだと。

 再び、エリに手を引かれながら惑う。

 人より死者の言葉を信じる己に。

 敵と味方を見分ける方法と同じく、私は死者の言葉を信じていた。

 生きた人とは違い、死者は正直だと。

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