第385話 群れとなる (下)②

「ありがとうございます。大丈夫です」

「無理をする必要はありませんよ。

 何でもいいなさい。

 貴女が一番にする事は、体を労ることですからね。

 ..まぁモリソン様、この子ったら。

 殿下方と違って、何とも遠慮しておりましてよ。そんな心苦しそうな顔をして、ほら少し飴でも食べなさい」


 どうやらいらぬ誤解をさせてしまったようだ。

 幼子のように飴を口に入れられる。

 美味しい、が、巫女様、私はいちおう幼児ではないのです。 

 はい、美味しいです。


「悪たれとお嬢さんを一緒にする方が間違っているぞ」

「そうですわよね、未だに悪たれですからね。

 まったく、ゲルハルト殿も激怒しておりましたが、今は謹慎にお付き合いされているそうです。」

「審問後にお会いしたが、..いつもどおりであったな。」

「まぁ言い出してなんですが、この話題は不愉快ですのでここまでで。

 それよりも、貴女はお預かりした行儀見習いという体です。

 私が側にいる間は、もっと頼りにして良いのですよ。

 遠慮は無用です。

 心配せずとも私や祭司長、それに総神殿長殿は貴女の味方です。

 これは何があろうともです。

 貴女からすれば、不思議かしらね。

 わかりやすい理由をひとつ教えましょうか。

 貴女は大人ではないから、ですよ。

 だからもう少しだけ、大人が貴女を守る。

 これは不自然ではないでしょう?」

「そして儂らは、そんな巫女殿や祭司殿を信頼している。

 彼らが庇護する者を気遣うのは当たり前。

 だから、そんなに心配そうにしなくてもよいのだよ。

 あぁ謝らんでいいさ。

 少し不安が減るように、これから向かう先の話でもするとしようか。」


 そうして面と向かって気遣われると、ありがたいが情けない気持ちになる。

 焦り、恐怖、状況に適応しようと慌てている間は何も感じなかった。

 なのにこうして優しくされると弱るのだ。

 これは神殿の人々に接し、優しくされる度に感じていた。

 優しさで私は弱ったのかもしれない。

 もちろん、これは気持ちの問題だ。

 けれど不思議なもので、弱音を吐くように風邪をひいてしまった。

 今も違和感が拭えない。

 怪我で弱っていたのも確かだ。

 祭司長が帰ってきた日の夜、明け方頃から熱が出て、咳が止まらずと典型的な風邪の症状が出た。

 それから熱が出ては下がり、下がっては上がりと寝付く日が続いた。

 おかげでクリシィは心配を通り越して、更に怒りをつのらせた。

 壁を崩した男達に対してだ。

 曰く、あの野蛮人で無礼な男どもの所為で、私が病気になったと。

 しかし、原因は私である。

 私が不用意に接触した事。

 グリモアを止められなかった事。

 風邪も鬱々と無駄に考え込んで養生を怠ったからだ。

 それに実はさほど、彼らの殴り合いには驚いていない。

 子供の頃から原野を歩き、村の年寄りや男衆に混じっていたのだ。

 少なくとも育ちの良い御令嬢のような感受性は無い。

 むしろヨーンオロフという傭兵が見せた、獣人特有の肉体変化に見入ったくらいだ。

 カーンの方は重装備で変化したかどうかわからなかった。

 けれど唸り声は、まったく人の物ではなかった。

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