第384話 群れとなる (下)
コツコツと硬い音がする。
土砂降りの雨の中、蹄鉄が石畳を叩く音だ。
車窓から眺める街は、全てがくすんで見えた。
北領よりは高い気温だが、海風が体感を下げる。
数日の馬車の旅で強張った体に、小さな行火を引き寄せた。
温もりを与える火石が入った行火は、同乗する巫女頭様もお持ちだ。
「モリソン様と私は幼馴染なのですよ。
私が獣人の母親をもっているのとは逆に、父親の方が獣人なのです。
よくよく私が義兄弟達に虐められていると、どこからともなく屋敷に忍び込んでは逆に彼らを締め上げていましたね。」
「ご安心ください。それも子供の頃の話ですぞ。
儂が親の代わりに躾をし、神殿に入ってからはより厳しく説教を続けた結果、今では熱心な信徒となり、皆、等しく同じ信仰の元で生きております。」
「モリソン様のお母様が大公血族の方だったので、義兄弟達も文句が言えなかったのですよ。
それも昔話です。
今では、彼らそれぞれが、私に相談事を持ち込んでくるようになりました。」
「..未だにか。
儂に隠れてこそこそとしおって。
ならば生きている限り、浄財をおさめ続けてもらわねばならぬな」
とは、同乗しているご老人の神殿騎士の方だ。
こちらも背筋の伸びた厳しい雰囲気の御仁である。
ただ、巫女クリスタベル様のお話に、どこか照れていらっしゃるようだ。
「いつもいつも助けていただいているのですよ。
今回は道中の護衛をかって出ていただきましたが、この後は祭司長様とご一緒に東南に向かわれるのです。
お体だけは大切にしてくださいましね。」
「本当に護衛はいらぬのか?」
「城塞内ですし、外出には兵を出してくださるそうですわ。
目立たぬ事が肝要、それにあちらのたっての御意向。
何も不安に思うことはありませんわ」
最近、彼女は色々と自身の身の上や、その他の事柄を話してくれる。
きっとあまりにも惨めに落ち込む私を気遣ってくれているのだ。
ここは東マレイラ領、アッシュガルト。
王都から馬車で二週間の港街である。
アッシュガルトは、東の筆頭三公と呼ばれる三領主が共同統治をしている場所だ。
「痛むのですか?」
無意識に折れた足をさすっていたようだ。
この旅にあたり、巫女頭のクリスタベル様、巫女クリシィが同行していた。
高齢な彼女を労るべきなのに、弱っているのは私の方だった。
巫女頭本人は過酷な馬車の旅でも至って元気である。
獣人種の血が入っている方は、総じて頑健なようだ。
大勢を監督する仕事よりも、自分の教区を持ちたい。
という意気込みもあるのだろう。
もちろん、本来の目的は別にある。
東の神聖教の分派寺院に、グリモアの文献と管理者の記録等があるからだ。
筆頭三公の内のコルテス公の支配地にある寺院。
そこの僧侶達に渡りをつける事が目的のひとつだった。
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