第383話 幕間 牢屋にて ⑨

 諦めて話を終わらせる。

 ジェレマイアは、呪われた男たちから目をそむけた。


「神殿会議後、形式だけの異端審問をする。

 神殿兵兵団長の爺さんが戻ってるから、警備体制引き継ぎと神殿まわりに放ってる男どもを回収してくれ。

 彼女には神殿兵の女性兵をつける。

 統括の面会とモルデンへの繋ぎの処理だ。

 オロフは商会の重役に話をつけろ。

 大公やら他の貴族に情報を売るなよ。

 神殿勢力を敵に回したら、お前らの墓はつくらねぇからな。

 それとだ、お前らには、彼女への接触禁止だ。

 コンスタンツェは禁足も付け加えよう。

 彼女が何処に隠されるかの情報一切も伏せる。

 これはお前にもだ、カーン。

 黙れ、何も言うな。

 私が許可を出すまでの間の話だ。

 彼女を死なせたくないだろう?

 どういう状況か、お前達には今ひとつわかってない話があるんだ。

 彼女も知らない。

 世間で流れていない話がな。

 それを含めて当分の間、すべてを隠蔽する。」


 口を開き、それぞれに何かを言いかけるのをジェレマイアは制した。

 それから両手を前に掲げて、圧するように言った。


「よく聞き、わきまえるのだ。

 これは中央王国国教の最高総司祭の御託宣である。

 沈黙を良しとし、神の御心に沿い己が使命を全うするべし。

 これに逆らうは神敵と見做す、心得よ」


 本来なれば、これで黙るのが普通の王国民である。

 だが、狂人は微笑んで何事か考え込み、床に転がる男は背中が痒いと言い出す。

 そして、呪われし男はと言えば、


「背中が痒いって言ったら、オコ?いやいやいや、マジで殺されそうなんすけど、祭司長様、俺、マジで殺されるっす」


 男の手元で何かが握りつぶされている。

 見れば、それはオロフに繋がる鎖の持ち手、金属の錘が数本束ねられていたである。

 その錘部分が砕けてジャリジャリと床に落ちていく。


「いや、旦那、マジで俺、降参してますんで落ち着いてくださいよぅ」


 この男を縛る呪いは、何なんだ?

 呪い故か、それともグリモアが加勢し男の鬱屈を利用しているのか。

 冷え冷えとした視線を向けてくる男に、ジェレマイアはやれやれと肩を竦めた。

 やはり、この男こそが呪いに踊らされているのだろう。

 隷下とされたコンスタンツェよりも、実は、一見影響が見えない方が深刻なのだ。

 それに何が厄介かと言えば、こうした呪いはきっかけに過ぎない。

 心のなかにある鬱屈や願いが顕になるだけなのだ。

 つまり、たぶん。

 縛られるのは己が意志なのだ。


「あぁ、貴賓室に移動するぞ。

 カーン、足枷と鉄鎖を外せ。

 イライラすんなよ。

 分かってるから、一時処置だよ、一時な。

 はぁ、お前ら動物以下だな、話聞けよ。」


 それに男は意味をなさなくなった錘を引きちぎる。

 それから拘束具を外し牢屋の壁に叩きつけた。


「駄犬の躾を怠るなよ、迷惑料を払っとけ」


 それからどこぞの悪役のような台詞をコンスタンツェへと吐く。


「よかろう。良い勉強になった」


 と、それには朗らかに狂人は返した。

 鈍い音と共に、壁が崩れていく。

 崩れる壁と振動に頭上の犬舎から大犬の声が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る