第91話 再現
「さて、娘よ。
新しき役を与えるのであ〜る。
見えるであるか、あるか?
あれに見えるは、死霊術師のボルネフェルト。
もちろん、お前は知っているのであ〜る。
あれは幻、
そしてお前は、生贄なのであるぞ、あるぞ。
ここに横たわり、死霊術師に囚われている。
憐れ、娘は囚われた。
だが偽りの姿ゆえ、騎士には、まったく見えぬのであ〜る。
と、まぁこんな具合だ。
導かれた男が辿り着いたら始めよう。」
「どうしてもか?」
「何、不満か?
仕方なかろう、あの男は外へ戻らなかったのだから。
もう一度、選ばねばならぬ。
物知らずの愚か者に、選ばせてやるのだ。
ほら、そろそろやってくるぞ。
死霊術師が勝てば、愚か者は宮の怪異になる。
愚か者が勝てば、呪いに蝕まれ我らの兄弟となる。
わかっておる、わかっておる。
だから、娘が選ぶのだよ。
ほれ、よくよく考えるのであ〜る。」
「ふざけるな」
「兄弟、ふざけているのは、いつものことであ〜る。
だが、しかししかし。
我らとて、森の民を苛むのは本意では無いのだ。」
「どうだかな。
娘よ。
これもまた、選ぶ必要のない事なのだ。
選ばずとも良いのだ。
だからな、あの獣が死んだら、お前は村に帰るのだ。
忘れてしまえばいいのだよ。
ここは、自分の罪が問われる場所なのだから。
お前が何も思い煩う必要はないのだ。
そしてあの獣が生き残っても、
「娘は忘れないだろう。我らも忘れることができなかったではないか?
だからな、それでも己が場所を譲ると娘が申すのなら、勝ちとしよう。
娘が勝ちとな。
どうだ?
お前が勝ったなら、我らは待つ事にするぞ。
主も我らもな、ずっとずっと待つ事にする。
真実選び取るまでな。
お前が勝ったなら、愚か者はここでの記憶を、忘れる。
お前が忘れる事を拒んだぶんだけ、忘れる。
そしてお前は、選び取れたと確信できた、その時」
仰臥する自分を認める。
体は痺れ、声はでない。
重い瞼を開く。
身動きもとれず、どうして彼らに勝てるのだろう?
三つの石の祭壇。
円形の広場。
空の台座。
石の天井。
ここは?
目の前に、あの広場がある。
それだけではない。
死霊術師がいた。
私は中央の台座から、一番右端の祭壇に横たわっている。
そして、他の祭壇にもそれぞれ人が横たわっていた。
体は押さえつけられたように動かない。
状況を把握しようと、目を動かす。
すると死霊術師が気が付き、こちらを見た。
誰だ、これは?
これは嘗て見た男なのか?
無表情は同じでも、目が悪戯をする前の子供のように輝いている。
そして何より、年若い。
青年になるかならないか、長命種らしい薄い色合いの髪色と目をした少年だ。
形だけは、死霊術師の長衣を纏い、傲慢な風を装っている。
私の凝視に彼は薄く笑い、そっと唇に人差し指をあてる仕草をした。
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