第90話 呪いと祝福 ②

 グリモアとは魔導の品だ。

 では、魔導とは何だ?

 第四の領域から力を得る術の事だ。

 では第四の領域とは何だ?


 神聖教の祖である兄弟なら、何と答える?


 我々の世は、三つの領域に分けられている。

 生者と死者の二つの領域に、我々、魔が暮らす冥府だ。

 そしてこの三つに属さぬ領域、理の外の世を第四の領域という。

 第四の領域とは、我々が属さぬ全てをさしている。


 グリモアとは、理の外の力を帯びている。

 つまり、我々の約束事の外だ。

 理を構築し破壊する為の道具故な。


 これは魔導書などという代物ではない。

 書の形をとる神の具、魔の物よ。

 グリモアを書物と考えたのは、人間だ。

 怪物に名前をつけると安心するのであろう。


 だが、なれば、これもただの絵筆にすぎぬ。

 ただの道具に喰われるのは、道具が主とは認めておらぬからだ。

 その道具、オラクルの書と呼ばれるグリモアの性質は、元の持ち主が必要とした権能だ。

 予言書と呼ばれたのは、その頃の名残だ。

 今はどうだ?


 死者の魂を集める邪教の書物か?


 元より、このグリモアは、宮の泉に通じている。

 魂を集めるのは元からだ。

 なのだからな。

 そして一番の違いは、使用者によってグリモアの定義が変わることだ。

 これを奪った者は、と考えた。

 主軸となるの書であればとな。まぁ愚か者らしい話しぞ。

 故に、喰わせなければとな。

 殺し、奪い、集め、力を得る為に。 

 だが、そのまま手にしていれば終わる。

 喰わせる度に、グリモアに主導権を譲るからだ。

 だから、与えた。

 与え、拘束し、狂喜したことだろう。

 勘違いも甚だしくな。

 まぁそんな愚かなの話なぞ、口にするのも汚らわしいか。

 正当な後継者なら知っている話だ。

 実は、喰わせる必要がない事もな。

 正しい場所から、糧をすくい上げればいいだけなのだ。

 そうして偽りの主は、グリモアに喰われ呪われて終わる。

 終わるはずであった。 

 だが偽物であるはずの、この死霊術師は還ってきた。

 どこで知り、どこで欺く事ができたのか。

 土産まで持ってな。

 この結末の違いは、我々にもわからない。

 我々が蒔いた種ではないからだ。


 何、不本意か?

 供物が不憫すぎるか?

 しかしのぅ、これでも譲歩をしたのである。

 それにな、兄弟が思うよりも、必要なことなのだ。

 我らにも、そこな娘にもな。


 それにグリモアは道具に過ぎないが、元の所有者の願いを長く長く受けてきた。

 これに溜まる者共も、正当なる後継者の手にのだろう。


 さて、自ら罪を抱えて戻りし魂の裁定はいかがするか?

 宮の住人とするには、その元となった者に穢がないのだ。

 これほど人を殺し、理を壊していてもな。

 理由はお互い知っているし、今更、口にすることでもないので言わぬがな。


 主は、不純物を取り除き、ディーダー・ボルネフェルトの魂から呪いを取り上げる事にした。

 余興に良いと加えることにしたのだ。

 残ったモノはこれだ。

 美しいであろう?

 実に痛ましく、素晴らしい。

 グリモアの糧となり、主が望む齋の準備も整うというものだ。


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