第390話 群れとなる (下)⑦

 さて、そんな不穏な状態の東マレイラにあるミルドレッド城塞。

 そこには南部中央兵力が置かれる。

 南部の獣人の兵力だ。

 三公爵と東八貴族東マレイラ支配者層は、中央軍への資金援助はしていない。

 彼らは中央軍と獣人勢力は、東地域に必要なしとしているからだ。

 中央軍編成に、彼らは人を出していないし、人族編成の領民兵力以外に自領氏族の私設軍を保有しているからだ。

 本来は領主貴族の保有する軍事力は一定に押さえられている。

 これは中央王国に帰属する領主貴族が自領民を中央軍に出し、代わりに有事は国からの軍派兵によって安全を保証するからだ。

 この労役や軍への資金提供、自領への干渉を拒否するとなれば、本来は王国離反の意思ありとして、敵対勢力となる。

 このため、この東マレイラでは、別の方法で属国としての義務を果たしていた。

 巨額の違約金と鉱物資源の独占輸出である。

 特産の貴重な鉱物が東公領の資金源だ。

 この収入により、彼らは大陸有数の資産を保有し、自治干渉を最小限に押さえている。

 違約金に関しても、軍事費利用を除外する徹底ぶりであったが、それも鉱物資源の利用に制限がなければ良しとされた。

 鉱物資源は、まさに軍事利用されているという事だ。

 反体制派の土地の存在を許しているのは、この資源の為である。

 そして見ない振りをしつつも、中央は武威を誇る南部中央軍の獣人兵力をミルドレッドに巡回させている。

 巡回なので、東マレイラに基地は無い。

 という建前である。

 面倒くさい話だ。

 一般人の私がそう思うのだから、当事者達もたぶん、色々な柵を面倒だと思っているだろう。

 そんな面倒くさい話ではあるが、神聖教の神官や巫女を敬わない訳ではない。

 神聖教の者だと知って襲いかかってくるような事も無いし、そこは建前と本音は別のようだ。

 城塞内の教会に神官や巫女がいれば、アッシュガルトの者が街での儀式や弔いなどを願う事もあるそうだ。

 これから向かう場所の地域情勢が色々複雑だとしても、特に石をもって追われるような治安の悪さではないという話である。

 そしてその城塞内の教会は、今、神職の者がいないそうだ。

 永年勤めていた神官様が老齢になり引退、そこで年始めに代わりの神官様を送ったそうだ。

 ところが、その方が突然の病でお亡くなりになった。

 マレイラに教会は無いのだから、補充の神官もいない。

 そして教区としては旨味もないので、老齢の者が引退を目前にしての奉仕として向かうのが通例。

 中々なり手がいない。

 更に一人前とされる聖神官位を持つ者が、腐土へと多く送られてる現状だ。

 全体的な人手不足の上に、布教拡大が望めず更には極小教会であり政情からも経験を求められる。そのような特殊な場所へ熟練者を送れずにいたのだ。

 では、どうするか?となる。

 本来、辺境や治安状態が懸念される場所には武装神官や渡り神官と呼ばれる男性が向かう。

 しかし神事を執り行うに、性別は本来関係が無いのだ。

 国教になる前は、女性神官という名称の役職もあったのだ。

 女性が神事に携わる事を禁忌とした訳ではなく、他宗教の弾圧ともなる宗教統一時に、女性を争いの場に向かわせる事を憂慮した為なのだ。

 故に巫女頭様が引退前に城塞に向かうのは、一応、不自然な事ではない。まぁ単身巫女様だけというのは異例だったが。

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