第389話 群れとなる (下)⑥
説明によれば、価値観の違いは根深い。
価値観、人種の差別は、他の地よりも深いそうだ。
特に人族種以外に寛容な神聖教は受け入れがたいらしい。
証拠に、表立っては中央王国国教へと改宗がされたが、その神聖教の教会支部が東マレイラには無い。
分派の寺院は元からの拝火教徒であり、それも細々としたものだ。
これだけならば、地方領主の自治権を考えればよくある事だ。
だが、神官や巫女の活動に制限をもうけ、実質東マレイラでの活動を禁止しているのはやりすぎである。
これは珍しい事だ。
南部の獣人支配地の奥地、砂蟲の巣があるような辺境地にでさえ、渡り神官が武装して足を運ぶ。
それが東マレイラには立ち入りも拒まれているのだ。
飛び地であるミルドレッド城塞は、中央の管轄なのでここが唯一の活動拠点となる。
加えて東マレイラには、緊急事態もしくは相応の理由と支配地域の領主許可がなければ、中央軍兵士の立ち入りも禁止している。(軍事行動に際しての王国軍大将による命令を除く)
これも複雑な歴史的経緯がからむ。
確執は王国建国を含む長期戦争、千年戦争が始まりだ。
この戦争は、長命種三代を越えて続く異例の事態であった。
本来なら資源や人的枯渇により、そのような長期戦闘が続けられる事は無い。
それを可能にしたのが、二大種族の臨時統合軍だ。
民族紛争、オルタスが小さな国や集団で領地争いをしていた頃だ。
中央王国を作った者達は、多くが長命種である。
彼らは支配者として自領の民を率いて戦う。
そして軍隊に参加する領民、頭領に仕える氏族の多くは、自分の兵として奴隷民兵を従えている。
奴隷民兵の多くは、獣人種や亜人である。
そして奴隷民兵は、財産であり貴重な労働力だ。
彼らが戦で死ねば、自領の食糧生産力も落ちるという事になる。
そこで治安の悪い時代には、南部で奴隷狩りなる蛮行も行われた。
因みに、現在奴隷とは犯罪者などの労役奴隷や借金奴隷以外は認められていない。
人狩りなどを南部で行えば、現地民に問答無用で始末される。
話はそれたが、つまり労働力を軍役へと回すのではなく、元より兵士として働かせる事にした。
ここで単に奴隷民兵をかき集めても、いままでと何ら変わりないうえに搾取だけになる。
そこで奴隷民からの解放を条件に加え、当時、台頭していた南部地域の支配権を与えるとした。
実質、支配をしていた獣王家との正式な同盟を結んだのだ。
中央王国の最初の形である。
つまり、奴隷民である獣人を仲間とし、その潜在能力を戦争に利用することにしたのだ。
そして当時、虐げられていた獣人を仲間に引き入れた者が勝者となり、今の王国となった。
貴重な労働力と戦力、財産である獣人を解放し、そして自分たちと同じだと宣言したわけである。
中央王国の最初の王は、従える諸侯の戦力と財産を削ぐ事ができる上に、獣人という多数を締める人々からの支持が得られた。
それは同時に、獣人と一部の権力者以外は財産を失った事になる。
長命人族の勝利を望んでいたはずが弱体化され、隷属させていた獣王の支配下に入っていたとは、当事者にとっては噴飯ものであろう。
そして、それを未だに良しとしない勢力が、東マレイラ地域の三公領主なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます