第400話 屑入れ

 気負いが目減りしたのが自分でもわかる。

 見覚えのある二人が目の前にいた。

 考えてみれば当たり前である。

 監視者が常に必要な身だ。

 一人自由にして何が起こるかもわからない。

 それが分かっているのだ、これでも十分配慮はされている。

 それに予想以上に見慣れ始めた顔を見て、ちょっと安堵している部分もあった。

 その見慣れた顔のひとつは、集会場の掃除をしていたのか雑巾を握りしめている。

 親の敵のように祭壇後ろの色硝子を磨いていたようだ。

 そして声をかけてきた方は、やる気なさそうに埃をはらっていた。

 ハタキは空気を混ぜているだけで、果たして掃除をしているのか指揮棒を振っているのかわからない。

 それでもクリシィは労りの言葉とともに、奉仕と信仰心をたたえた。

 まぁ片方の信仰心が極まっているのは間違いない。

 私は何とも言えず、見るに留めた。

 彼らは礼をとり巫女と付き添いの神殿騎士に、恭しく頭を垂れる。

 それから私に目を移し、二人して頭を振った。

 どうやら何かがお気に召さなかったらしい。

 イグナシオは、いそいそとクリシィの手を取り、内部の案内を申し出た。

 サーレルは欠伸をして首を回している。

 燃やされたにしては包帯も少しになり、顔がまだらに黒いだけだ。

 髪の毛が短くなった以外は元気そうである。


「意外ではないでしょう。

 貴女を保護しているのは我々なんですから。

 中途半端な事はしませんよ。

 それに団長は、変態が大嫌いですからね。」

「団長とは、砦の?」


 それにサーレルは唇を面白そうに歪めた。


「我らが指揮者殿は一人ですよ。

 間違ってはいけません。

 カーンが貴女の保護をしているのです。

 砦の椅子を温めている者は、部外者ですよ。」


 相変わらずの笑顔に、ちょっと捻くれた物言いだ。


「まぁ色々面白い事になっていますが、貴女は養生に専念なさい。冬のマレイラが養生に向いているとは思いませんがね。

 あぁ日に一度は、誰かがこちらに様子を見に来ます。

 我々の内の誰かです。

 他の者は、我々が紹介しない限りは部外者と心得てください。そして神殿の巫女様以外も信用してはなりませんよ。

 これはここに暮らしている住民も含めてです。

 よく覚えておいてくださいね」


 その言葉の意味を考える。

 考えて、不穏だと思った。


「そうですね、城塞内の治安は保たれていますし、表面上はすべて順調です。

 ですが、貴女の本来の目的である調査の為でなければ、こんな場所に貴女を迎え入れるのはありえない話なのです。

 ここは貴女の話が出る前から、我々の任地として次に向かう場所でした。

 この意味はわかりますね?

 ここに紛争問題も、内部の問題も無い場所ですが、我々が次に向かう場所でした。

 さぁ考えてみましょう。

 ここはどういう場所でしょうか?」


 のんびりと微笑んでいる顔を見上げる。


「まぁそういうことです。我々以外に気を許せるのは巫女だけと覚えておきなさい」

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