第245話 蠎(大蛇) ②

 鳴き声が響きわたる。

 奇妙な、そして背筋が泡立つ鳴き声だ。

 天空の赤黒い裂け目から、顔が覗いた。

 ひとつ、二つ、三つと、次々と顔が覗いた。

 それぞれが爬虫類特有の動きをしながら、裂け目から姿を現す。

 うわばみだ。

 ゆっくりと空から森へと降り立ったのは、七つの頭を持つ巨大な爬虫類の姿である。

 青銅色の巨大な姿。

 鱗は棘を持ち、鋭い歯を持つ頭部。

 鶏冠とさかたてがみのようなものが首周りにある。

 七つに分かれた頭部は、それぞれ知能があるのか、あたりを睥睨へいげいし奇妙な鳴き声をそれぞれにあげていた。

 あの地下水路で聞いた鳴き声だ。

 奇妙な声が響くと、その回りを飛んでいた鳥が地面に落ちた。

 ボタボタと墜落し、地面を逃げている獣はもんどり打って転がる。

 人が聞けば棒立ちだ。

 呆然と眺めていると、ひとつの頭が首を擡げ、大きく息を吸い込むのが見えた。


 火を、吐いた!


 森が一瞬で火の海だ。

 その衝撃と音が、遅れてフリュデンに到達する。

 突風に体を煽られて、私は足を滑らせた。

 転がり落ちた私に、サーレルとエリが駆け寄ってくる。


「怪我は!」

「大丈夫です」


 途中の枝を掴めたので、擦り傷だけだ。


「今のは何だ?」

「トゥーラアモンの森が燃えています」


 化け物が火を吹いて?

 言いかねて閉口する。

 その時、再びの揺れが襲う。

 蹈鞴たたらを踏む足元、エリの足元に緋色の線が見えた。


「エリ!下だ」


 揺れで動けない。


(召還陣だね)

「サーレル、エリを掴んで!」


 見る間にエリの足元が地に沈む。

 地に描かれた緋色の線に、消えていく。


「何ですか、これは!」


 エリは卵を抱えたまま、私達を見た。

 困ったような、それでいて、諦めわかっているような表情だ。

 彼女は、私達を見て、走り戻ってくるライナルトを見てから、目を閉じた。


 確かに、私は彼女を掴んでいた。

 だが、その小さな姿は消えていた。

 一足遅くたどりついたライナルトは、膝をつくと地面をまさぐった。


「何故、消えた!」


 ライナルトは、硬い地面を殴りつけた。


「おい、何故、子供が消える!」


 兵士達も、ライナルトの元へとやってくる。

 私は金臭い匂いに身震いが止まらない。

 怖いと身震いする私。

 怒り狂い身震いするワタシ。


(どれほど喰えば、アレは檻にもどるかな?

 どれほど償えば、アレは神に戻るかな?

 まぁ、芥虫がまた、何か嘘をつこうとしたんだね。

 で、君は怖がって泣くのかい?それとも..)

 

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