第7話 獣道 ②

 どうやら、私の速度で納得したようだ。


 森の入り口から遠ざかるごとに、道らしきものは消えた。

 爺達は、多分、館の方向から森に入ったはずだ。

 館は森を囲む街道沿いにある。

 そして館は街道のつなぎ目に建ち、関所の役目も果たしている。

 首都に向かう道を東、ここが事実上の終着点だ。

 この終着点から森に沿うように、北の山の領域に細い街道が続く。


 ここで一旦、人里が終わる。


 万年雪の険しい山脈に続くこの道は、かつて隣国へとかろうじて通じていた。

 それも、獣道程度。

 山から下ってくる者はいない。

 この道が機能していたのは、三代前の公王の頃までだ。

 隣国の間に横たわる北の山脈は、絶滅領域と呼ばれる生き物が死滅した場所だ。

 隣国と言うが、この領域を挟んで孤絶している。

 そしてこの死の世界は、館の正面からその道を避けて、まっすぐ進むとある。

 一昨日の昼前に森に入ったとして、寄り道しなければ、山裾の領境に抜けている。

 森に沿った街道を、北回りに行くより時間を短縮できる道のりだ。

 だが、それだけの為に、領境を目指す。とは考えにくい。

 王都からの客人を送り届けたとして、すでに館に帰っていてもおかしくはない。

 そんな簡単な話だったら、そもそも狩人を引き連れてい行く必要も無い。

 絶滅領域に、冬に向かうという自滅行為をするという前提だが。

 ならば、森が目的地と、子供でもわかる。

 森は歪に、南西の方向へ広がっている。

 その森を突き抜ければ、崖や谷が入り組んだ険しい荒野だ。

 これが国境まで続いており、天然の防壁となっている。

 辺境伯領軍の規模が民兵並に少ないのも、この場所を通過しても維持できる他国の軍がいないからだ。

 逆に、この土地を通過できるほどの武力があるならば、何も北から侵略せずとも、中央を攻撃できるだろう。

 この世の果て、と揶揄される場所だ。

 つまり、酔狂で訪れた客を案内して、山へ向かったのなら、心配のない話だ。

 温泉にでも浸かりに、絶滅領域間近まで、自滅覚悟で来たなら、とんでもない武勇伝である。

 だが、事が西に向かったのなら、笑い話では済まない。

 奥方や館の者が狼狽しているのは、西に向かったのではないかと、疑っているからだ。

 深部に入るには、爺達も歳だ。

 こんな事を考えていると知れたら、六人がかりで説教されそうだが。


 凍死の危険、足元の不安、獣の群れ。


 それに...


 見上げると白い大きな雪が落ちてくる。

 寒い訳だ。

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