第119話 街道へ ⑤

 お前にこれを書くのは、どうかと思うが、付け加えておく。


 生贄の印とは、お前の額に出た蔓薔薇と同じ模様をしている。

 その模様が儀式台の石の上で焼いた草木の灰に出るのだ。

 ここ数年、それに近しい形が幾度も浮かんだ。

 だが、確証も得られず、認めなかった。

 己が苦しみたくないばかりに、お前には伝えられなかった。

 お前なら、簡単に生贄になると言い出しそうだったのもある。

 お前自身は気がつかない振りが上手だ。

 自分の心に嘘をつくのがうますぎるんだよ。

 本当は、生きることを辛く思っていたんじゃないか?

 領主館から出て一人で暮らしていたのも。

 必要以上に村の中に入ってこなかったのも、気遣いと遠慮だったんだろう?

 優しい心だけでは、生きることが痛かったんだろう。

 わかっていても儂らは、これまでのことを言えなかった。

 お前の嘘は優しいが、我らの嘘は汚いだけだ。

 だから、儀式台に花を認めた時、儂らも魔のモノに囚われた。

 間違いを間違いと認めなかった罰があたったとわかった。

 お前を失ってしまった事が、罰だ。

 同時に、許しは無いとの宣告でもある。

 だからお前があの時、男に背負われているのを見て怖くなった。

 生贄はいらない。

 もう、生贄はいらない。

 喜ばしいと思えば良いはずなのだ。

 だが、その意味を考えずにはいられない。

 我々は、許してもらう機会を失ったのだ。

 

 オリヴィア、何かに縋りたくなるのが人だ。

 我々の醜さ愚かしさを、すべての人が抱えるものだと思わないで欲しい。

 必ず、慈悲や徳をもった人もいるのだ。

 心正しく、強い者もいるのだ。

 我々がすべての人を代表するとは思わないで欲しい。

 そして悲しみ諦めないで欲しい。

 許さなくてもいいから、お前自身を大切にするのだよ。

 心をかけて命を投げ捨てる前に考えるんだ。

 偽った儂らが言うことではないが、どうか命を大切に。

 それにな、この勝手な言い分にも、怒っていいのだよ。


 祖父より。



「おう、分かれ道だ。どっちに行けば良いんだ?」


 私は手紙を懐にしまった。

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