第120話 廃村

 旧街道とは、中央大陸を最初に網羅した石畳の道だ。

 混沌とした民族紛争の頃、小国が争う時代にできたとされる。

 現在の中央王国ができる以前の話だ。

 それでも今現在、道の体裁を残し王国の国々を繋いでいる。

 現存する旧街道は、王国の街道と同じ扱いだ。

 旧街道が、幾度も作り直されて今の道になったわけだ。

 だが爺達が言う旧街道は、山野さんやに埋もれた裏道らしい。

 国の地図、まぁ我々下々しもじもが見ることのできない、彼らの地図には載っていないらしい。

 なぜなら旧街道は戦の為の道だったので、多くが時勢により潰され残っていないのだ。

 爺達は、その潰された道を狩りに利用していた。

 北方辺境伯の隣、領地境を縫うように通る獣道である。

 旅程を半分に短縮できる近道で、国の本街道へと繋がるとの話だ。

 しかし裏道だけに、枝葉は藪に川にとついえてる。

 一歩間違えれば、逆に北に向かう事にもなりかねない。

 爺達狩人の地図がなければ、自然に戻りつつある獣道か旧街道の残骸なのか区別も難しい。

 正直、藪を突っ切っているのと変わらない荒れ具合なのだ。

 そうして偶々残っている敷石を目印に東に進む。

 利点をあげれば、雪にも泥にも足をとられない事か。

 目視できる敷石は少ないが、木の根や落ち葉の下には、街道が確かにある。だから一見すると原野のようだが、馬が楽に進む。

 田舎道の轍と踏み荒れた土の道よりもだ。

 正規の街道は降雪の後は泥濘ぬかるむ。

 現在の王国の街道の殆どが、土の道だからだ。

 その地の領地が道を整備しないのは、それこそ攻め入られた時に備えてだ。

 交易が盛んな場所以外は、敢えて荒れて置かれる事もままある。

 それに北が貧しい事もあり、領地内は騎馬行軍は難しい。

 もちろん、カーン達の戦馬せんばはものともしないだろうが。

 それはさておき、なにより裏道は藪の中なので風が冷たくない。

 欠点は枝払いが面倒なのと、人家が乏しく、宿場が無い事か。

 そんな藪を進む一行だが、今の所、不平不満を漏らす様子はない。

 気温が下がり続けているので、少しでも先に進みたいからだろう。

 じいが少し脅かしたのもある。

 好天は数日で、その後に死をもたらす冬の嵐が来ると伝えたようだ。

 嘘ではないが、本当でもない。

 暑い国出身の獣人達には、想像もできない冬の暮らしが北にはある。

 実際、冬の生き物も地吹雪にまかれて凍死しかねないのは本当だ。

 だからといって、人の暮らしができぬほどではない。

 領地の村々は、基本的に地下に生活の場があるのだ。

 地下道が家々と領主の館を繋ぐ。

 近隣の村もそうだが、北は地下暮らしで越冬するのだ。

 それに村には温泉がある。

 だから地熱を利用した暖かな暮らしができるのだ。

 私の家も一見すると孤絶した建物のようだが、地下通路で爺の家へと繋がっている。

 外出できない冬の間、ばばと一緒に手仕事をしたものだ。

 他愛ない話をしながら、いつも春を待っていた。

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