第121話 廃村 ②

 ちょっと遅れて、さびしさが寄り添ってくる。

 また、考えがそれた。

 つまり厳しい冬を理由に、余所者を追い立てたのは、村に立ち寄って欲しくなかったからだ。

 我々は、けがれである。

 みそぎをしない限り、村に穢を持ち込んでしまうからだ。

 それに地下に広がる村が知られて良いことは無い。

 だから、爺は彼らに手作りの地図を示し、私を案内にたたせたのだろう。

 私は、こうした爺達村人の抜け目のなさが好きだ。

 純朴さや頑迷がんめいな面を表にだしているのは、無知蒙昧むちもうまいな田舎者とあなどらせる為。

 狩人らしい化かし合い。獲物が人を餌と考えている内に、捕らえて肉を手にするのだ。

 効率的であり我慢強くもあり、その部分を見習うべきだろう。

 ふと、ここまで考えて、受け取った手紙の内容をずっと吟味していた事に気がついた。

 ずっと村の暮らしや爺達の事を考えているのは、その所為だ。

 爺達の手紙は、結局、何が原因で生贄の儀式が続いていたのかを記していない。

 自らの罪だと言っているだけだ。

 そこに、私が宮から外へと戻された理由もあるような気がした。

 生贄というが、宮の主が命を欲しているとは思えない。

 宮の番人、彼らも命を欲しているようには思えない。

 血に飢えた魔物?

 確かに宮には化け物が徘徊していた。

 だが、彼ら宮の主や番人は、違うような気がした。

 わからない事ばかりだ。

 グリモアの主である自分の事も、今ではわからない。

 ただ、伝えられるなら、爺達にもう一度言いたいと思う。

 これだけは変わらない。

 私は大丈夫だ。

 私自身が選んだ事だ。

 私を拾い育ててくれた恩は、変わらない。

 生贄の風習により留めたとしても、決して彼らの優しさを忘れはしない。

 だって、現実には生贄に出さなかった。

 私を教育したのは、外に出そうとしていたから。

 御館様は、行いで示したじゃないか。

 爺達だって、村から逃げないという選択をしたから。

 彼らを庇っているのか?

 違う、彼らが好きなんだ。

 それを否定したら、惨めだから。

 私は、自分が可哀想だと思いたくない。

 私は、けっこう爺に似ているのだ。

 頑固で負けず嫌いなのだ。


 ***


 木々や地形によって、極北の寒風から守られているので、穏やかな道行だ。

 吹きさらしにならなかった事を、カーン一行は評価した。

 もちろん、旧街道を正しく辿っているならば。


「このまま進んで、俺達は遭難しないのか?」


 カーンが笑いながら馬を寄せてきた。

 私が呆然として、口を開いたままでいるのがおかしかったようだ。

 崖だ。

 藪の先は崖だった。

 道じゃなくて崖が目の前に広がっている。

 崖って何だよ、方向は間違ってないぞ。

 爺、この地図、最近確認したの?


「しっかりしろよ、道案内。俺の方は、どっちを向いてるのかもわからねぇんだからよ」


 頭に手を置かれ、グリグリとこね回された。

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