第79話 選択 ④

 智者の鏡を掲げて進む。

 闇の中、門を目指す。


「意味を考えていた」

(そうか)

「どれを選べば、爺たちはお目溢しされるのかなって」

(そうか)

「信じていいのかなって」

(..そうか)

「御館様の、御領主一族と領民は許してもらえるのかな」

(奴らは偽りは申さぬ)

「..うん」


 供物は、文字通り喰われるのだろうか。

 迷い込んだ人は、皆、殺されるんだろうか?


(..元より、お前は自分からここに来たのではない)


「私が逃げきれたら、爺たちも」


 手探りで、闇の中を歩く。

 時折、ナリスが方向を示す。

 暗闇の中にいると息苦しい。

 それに後一つ何かおきたら、泣き出してしまうだろう。


 爺たちを殺さないで。

 私の世界を殺さないで。

 こわいよ、誰か、誰か助けて。


 目を凝らしても、何も見えない。

 何が正解か、わからない。

 どうして、こんなことになっているんだ?


 その時、微かに誰かの話し声が聴こえた。

 立ち止まり、耳をすます。

 人の声だ。


「なぁ、誰が鍵だと思う?」

「そんなことより、出口だろ」

「そいつを殺せば、逃げ出せるって話じゃないか」

「だとして誰が鍵かなんて、わからないだろうが」

「そいつを殺せば化け物にならずにすむ」

「どうだかな。殺し合ってる奴ら、どうなったか見てただろ」

「鍵ってのはさ、自分がそうだってわかってるらしいぜ」

「どうせ化け物のいうことだ、信じられるか」

「殿下は死んじまったし、俺達はこのままだと」


 数人の男の声だ。

 どこから聞こえるんだ?


「道案内の年寄りどもは、何処だ?」

「偶然を装っちゃいるが、あの糞爺ども、俺達を殺ろうとしてるだろ。ここに閉じ込めようと通路を崩しやがった」

「あいつらじゃねぇのか?」

「公爵の手勢も怪しいだろ、もともと奴らはジグ帰りだ。どいつもこいつも、病人みたいじゃないか」

「その公爵じゃないのか?」

「バルドルバに斬られていただろうが」

「斬られた程度で死ぬのか、あの男は?」

「公爵との付き合いを続けた殿下の失策だ。今回の事も」

「その殿下は死んだ。公王からの依頼だろうさ。クッソとんだ貧乏クジだ」

「バルドルバを始末すればいいだろう」

「お前、バルドルバ卿に挑んで、生き残れると思っているのか?」

「なぁそれよりも、鍵って何だ?」

「化け物が言ってたろう、鍵があれば」

「違うだろう、確か、門の鍵だよ。この場所から出られる門の鍵だ。」

「その鍵があれば出られるが、鍵は誰かの物だ。」

「あぁだから、殺して奪わねばならん。」

「何でそうなるんだ?」

「言ってたろう?」


 その鍵は、許された者が手にしている。

 許されて、ここから出られる者の証が鍵だ。

 鍵を手にしている者だけは、門を通り抜けられる。

 もし、鍵を譲り受けたなら、その受け取った者も通り抜けられる。

 けれど、譲った者は帰れない。

 

 なら、殺して奪うしかないだろう?

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