第80話 選択 ⑤
どういう事だ?
今の話は、どういう意味になる。
宮での殺し合いは、自滅だ。
鍵?
もし、私が彼らの言う鍵だとしても、名乗りでる益は無い。
誰が彼らを唆した?
それから闇の中で幾人もの人の声を聞いた。
争う声。
怯える声。
疑う声。
悲鳴。
その度に、立ち止まり迷う。
私は卑怯なのでは?
彼らも助けるべきか?
一緒に行動すべき?
助けられるのか?
爺たちは、彼らを帰さないよう立ち回っている?
助けてはならない?
狼狽が混乱に変わっていく。
チリン
「腹がへったなぁ」
聞き分けて、立ち止まる。
リン
もう、帰れないのは、わかっているんだろう?
チリン、リン
瞼を一度閉じて、唇を引き結んだ。
そうだった。
何処へ帰るんだ。
あの村はずれの家に?
あの場所で森を眺めながら、後悔しつづけるのか?
閉じ込めた男が、化け物になるのを毎晩待つのか?
「まったく、馬に食料を乗せてあるんだがなぁ」
呑気にぼやく声。
腹が減ったの、眠いのと。
(お前は、元の暮らしに戻るのだ)
「無理だよ」
(問いに答える必要は無い。
宮の門へとたどり着き、沈黙を選べばよいのだ。
さすれば、お前の育ての親たちも、元の暮らしに戻れるだろう。)
私は片手で口を押さえた。
嗚咽のような何かが喉元にある。
うっすらと、答えがわかりかけていた。
知らない人ならば、無視できる。
どちらを選べと言われたら、爺たちだ。
無視できる。
彼は余所者だ。
無視できる。
一時の関わりに過ぎない。
通りすがりの人間だ。
だが、忘れられるか?
生き延びて、知らぬ振りができるか?
できるさ、誰も選べないんだ。
今まで聴こえてきた声の主だって、知らない人達だ。
ホントウニ?
私は闇の中で泣いた。
男がボヤきながら、誰かと戦っている。
狂気に駆られた者が手当たり次第に襲いかかっているのだ。
それにあの男は応じているのか、剣戟の音が聴こえた。
「おいおい、死に急ぐ事もあるまい」
それにいくつもの呪詛が男に浴びせられる。
更に、襲われているようで、
「邪魔だ、死ね」
「ありがとうよ、ほら、礼を受け取れ」
カーンは、やけに楽しそうだった。
そして、
「まぁ俺も最後は、こんなもんだよな」
と、 朗らかな声音が、逆に痛ましい呟きだった。
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