第20話 名を問う

 武装した兵の重さは如何ほどか。

 カーンの動きに鎖帷子が鳴り、胸当てが軋む。

 重歩兵の装備よりは軽そうだ。

 ゆったりと歩く姿は、少し前屈みである。

 白い影が視認できると私は立ち止まった。

 甲冑だ。

 白い。

 全身を覆う甲冑はカーンと同じくらいの背丈で、通路を塞いでいる。

 異形と言えばいいのか。

 その白い兜は頭蓋骨だ。

 中身は見えない。

 兜、頭蓋骨の側面からは、水牛のように立派な角が突き出している。

 体は、全身が白い骨のような姿の鎧だ。

 その表面はつるりとしており、継ぎ目も細かな骨のような細工が施されている。

 中身は見えない。

 隙間は鈍色の鎖帷子が覗き、頭部も兜や鎧下に覆われて隙間も無い。

 剣と盾を帯びており、ただ立ち尽くしている姿は彫像のようだ。

 が、カーンの様子を見る限り、彫像ではない。

 あと数歩というところで立ち止まる。

 男の体に力みは無いが、圧力?威圧が放たれる。

 するとその威圧に対して、骸骨兵は動かない。

 背丈は同じだが、厚みは骸骨兵がある。

 私は息を殺して身を屈めた。

 あの骸骨兵の後ろに、暗い広がりがある。

 あれが飾り物だとしても、押しのけて通らねばならないだろう。

 カーンが剣を振り上げるのを目の端で捉える。

 両刃の大剣が風を斬る。

 すると微動だにしなかった骸骨兵が剣を抜き放った。

 中型剣と大剣が噛み合い、青白い火花がチリチリと舞う。

 片手で重い金属の塊を、あの骸骨兵は受けてたった。

 そのまま打ち合いになだれ込む。

 私の中では、無言で斬りかかるのは如何なものか。と、躊躇いもあったが、異形の戦いぶりに不安の方が勝った。

 言葉が通じるモノでは無いだろう。

 動きが正常な生き物ではない。

 筋肉や腱を無視した動き、関節の動きに妙な間もある。

 何より、骸骨兵から放たれる気配がおかしい。

 姿勢を低くしながら、腰から外した角灯に火を入れた。

 ここに落とされた時に消えていたのだ。

 生き物には、須らく独特の気配がそれぞれある。

 この感覚は、私独特のモノだ。

 種族特性、吹雪の中でも方向がわかるのと同じ。

 生き物ならば、ほぼ何となくつかめる。

 感じられないモノは、人の手による建造物や石。

 件の骸骨兵を異形と感じたのは、そこに生き物らしい揺らぎが見受けられなかったからだ。

 石や岩とも違う。

 敢えていうなら、死にかけた獲物の感触だ。

 消えゆく光りを見るような、物悲しい気配。

 私は逃げ道を探して、辺りを見回した。

 もちろん、心の隅では別の答えを見ていた。


 あれは生きているのか?



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