第21話 人と獣と
カーンが殺し合いに負ければ、一人でアレをまかねばならない。
空気の流れは無い。
だが、澱み腐っている様子もない。
光りは、無い。
光源は、壁や床が発光している。
方向は?
感覚は、先程までいた穴の底と同じと告げている。
あの場所より下?
わからない。
どちらを向いているのか、壁に手を当ててみる。
岩や地面なら地脈も感じ取れるのだが。
この壁は見たこともない薄板のような物が貼り付けられていた。
目を凝らすと薄青白い表面に、灰色の精緻な紋様が描かれている。
その紋様と地色が浮き出るように光りを纏っている。
これがこの地下道を辛うじて闇に落とすのを防いでいた。
鈍い音がして、意識を戻す。
カーンが骸骨兵の中型剣を叩き折ったのだ。
その勢いのままに相手の頭部を剣の平で殴りつけ、体を浮き上がらせる。
そして上半身が浮いたところで、肩口から相手の腹に激突した。
グシャッと厭な音と共に、壁に骸骨兵が叩きつけられる。
肩の半盾で骸骨兵の内臓を潰したのだ。
騎士の戦いざまとは云い難い。
二度三度、壁に叩きつけて引き摺り倒す。
殺すより中身を確かめたいのだろう。
相手の力が抜けた所で、カーンは相手の胸に足を乗せて抑え込んだ。
どうやら、一人で逃げる事はできないようだ。
「坊主、顔の防具をとれ」
そう命令する当人は相変わらず口元しか見えない。
外套の頭巾はとうに脱げている。
しかし、簡易な兜と面頬が鼻筋を覆い隠す。
目元は相変わらず影に隠れ、口元には嘲笑があった。
「死体ですよね?」
「それを確かめるんだよ。ほら、面白い兜だ。
たった今まで動いていたとは思えない。
冷気を発する姿は動かない。
元より動いていた時も、生きているようには見えなかったが。
頭部の一撃で絶命したのか、胸を潰されたからか。
近寄り見下ろすと、不自然なことに気がつく。
人の縮尺とは、体の部位がちがっていた。
王国は多彩な人種が暮らすが、それでも体の作りの位置までは、そうそう違っている訳ではない。
頭はカーンより大きい。
肩幅は狭く、腕の長さが左右で違う。
胸は厚く、腰は極端に細い。
腿の太さも左右で違い、まるで不器用な手で縫い合わされた人形のようだ。
そこまで考えて、押さえつけている男を何故か見た。
素直に言えば、怖かったからだ。
男の変わらないニヤニヤ笑いが、乱れそうになった心を鎮めた。
「何してる、早く兜をとれ」
頭を振ると、私は骸骨兵へと近寄った。
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