第168話 真偽の箱 ⑤
サーレルの手にあるのは、細長い金属の棒に見えた。
「この手形は棒状ですが、正しい鑑定を行うと変化します」
説明はいらないし、注目も浴びたくないのだが。
まぁ黙っておとなしくする。
そんな私とエリに説明する体で、サーレルはわざとらしく続けた。
「この王領手形の鑑定には、真偽の箱という装置が必要になるのです。
これは王国法と呼ばれる国土法律及び税率法により、王国貴族の領地には必ず置かなければならない物ですね。」
検問所の奥、兵士が小さな箱を持ち戻ってくる。
それは恭しく捧げ持たれ、薄曇りの陽射しに光りを滲ませた。
その箱の登場に、側にいた兵士たちから波のように動揺が広がる。
見事といっていいほどの反応で、それまでの怒号と悲鳴が静まり返った。
境界壁の内側では、出ていこうとする者の荷物が撒き散らされ、街の中へと人を押し戻そうとする兵との小競り合いが続いていたのだ。
騒いでいた人々も、騒ぎを抑え込もうとしていた兵士達も、皆、動きを徐々に無くした。
小さな金属を片手に、黒衣の偉丈夫が笑顔で立つ。
何で、こんな男の側にいて平然としていたのか、自分でも疑問だ。
きっと比較対象がカーンだったからだ。
この男単体で見れば、決して近寄りたい輩ではない。
人族や亜人の中に入れば、身の丈もやはり大きい。
武装も漆黒に薄っすらと銀の模様が描かれて、金のかかった装備だ。
近寄らなければ、それがわからないようになっているのが、また、恐ろしく高価だと知れる。
そして、この男の得物は二振りも腰にあり、片方が細剣、もう片方が短めの直刀だ。
大物を振り下げているカーンとその一行に紛れていたので、それよりも小さな武器と思っていたからか、あまり目にも入っていなかった。
「その箱は、領地の関や税を取り立てる場所に、必ず置かなければなりません。
この真偽の箱は、公王陛下への恭順の証であり、私のような者に、ここが同盟地であると理解させる役割を担っています」
周りの動揺を笑いながら、サーレルは
つまり、関を設けて金を取り立てるなら、王国にも金を差し出せという意味である。
「小箱は三年に一度、新しい物に買い換える必要があります。
そして関に小箱が無い。
領主の手元に小箱が無い場合は、我々の庇護からも外れる事を意味しています。
ここアイヒベルガー侯は、公王陛下の忠臣ですから、そのような手抜かりはまずありません。
では、こちらの鑑定をお願いしますね。
因みに真偽の箱のお値段は、領地支出の年一割程度ですね。三年分とすればお値打ちかも知れません」
それは高いのではないだろうか?
「この程度の踏み絵で、破滅を回避できるなら安いものでしょう。ねぇ」
同意を求められても、兵士達はサーレルを決して見なかった。
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