第448話 挿話 夜の遁走曲(上)
南領第八師団の憲兵は、百八十人いる。
その百八十人を分隊二十に分け、更に三小隊に編成し、三交代で回していた。
内部秩序維持などにあたるのが憲兵だが、冬のマレイラでは城塞外の巡回警邏活動のみとなっている。
ある意味、筋書き通りの采配である。
それでごまかせる話でもないのだが、指示した当人たちは取り繕えていると思っていた。
集団行動の中で、対人感情が著しく鈍麻しているのが謎である。
軍隊という組織の中であるならば、命令すればそれで物事が整然と進むと考えているようだった。
入れ物が
組織運営の不確定要素には、人と人との不和もある。
それを考えずして、人を動かす事は無謀だ。
筋を通せ。
それが死ねと命じる者には、必要な責任と義務でもある。
それもできないのなら、納得できる理由を提示しろ。
まぁそれも無理な話か。
どうやら今の第八は都合の悪い事は忘れるようだ。
憲兵を閑職に回したところで、それで終わる話ではない。
それを当人たちはどうでもいい出来事と片付けているので、相手も同じと解釈しているふしがある。
己の尺度だけで物事を見ているのだろう。
新任以外の者が残り張り付く理由なぞ、恨み骨髄以外に無いだろうに。
と、潜み待つモルダレオは無駄な考えを仕舞う。
不必要に目についた無能に思わず気をとられた。
裏工作も楽勝すぎて、ある意味相手が憐れだった。
何も詳細を話さずとも、憲兵隊がこちらの話に即応したのが証拠である。
師団の指揮系統から密かに外れ、簡単に直属隊の指揮下へと移っていた。
仕事が楽になってよかったよかった。
と、サーレルは喜んでいるが、カーンにとっては迷惑な話である。
馬鹿どもの逆恨みの種が増えただけなのだ。
不毛である。
けれどこれもまた、筋書き通りである。
沈没船から逃げ出せなかった鼠みたいなもので、艀について飛びだしてきた訳だ。
モルダレオとエンリケは、その憲兵の小隊を率いている。
残りは元々の憲兵上級中隊長が率いていた。
上が死んでの繰り上がりだが、恨み骨髄の今となっては実に良く働いてくれている。
残り二個小隊でバレぬように通常警邏を回すと言う曲芸をこなし煙幕としていた。
この無理は、軍団長補佐の補佐につくウルリヒ・カーンの提案だ。
腑抜けた奴らには、この程度でバレはしないという訳だ。
確かに腑抜けだ。
その意味がわからない腑抜けである。
元々、茶番だ。
カーンが退き、その後に座った後任は別の者であった。
それを政治的な駆け引きで引きずり降ろしての、補佐就任。
補佐程度の身の程であるのに、軍団長などと自称している馬鹿者の補佐だ。
元々の団長が補佐である。
阿呆らしいと誰も知っているが、墓穴を掘るのは馬鹿自身だ。
しかし今は、その馬鹿がどんな末路を辿るのかを眺める話ではない。
偽装憲兵二人が調べるのは、アッシュガルトに蔓延る怪異である。
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