第515話 遡上 ⑥
「まぁ話が大分それたが、そんな高度な人体改造技術が東では行われた。
何しろ、この土地が絶滅領域になる瀬戸際だったからだ。
それに長命種への施しだからこそ、政治的にも可能だった。
嫌な話だが、獣人や亜人には、このような施しは行われない。
南部の疫病がいい例だ。
この行いにより、コルテス人は中央との繋がりを大切にするようになった。
まぁこれはもっと余計な話だが、真逆の行いを我々に行った為、今現在、中央政府は南部離反を恐れている。
南部への施しをしなかった結果、大きな負債を中央は作った訳だ。
今、政治的な発言力が南部寄りになりつつあるのは、獣人を見捨てた形になった為、離反を恐れている中央が譲歩しているのだ。
だが、施したはずの東が乱れ始めている。
種族で信用を担保したつもりだろうが、それが通用するなら戦争なんぞ起きないのにな。」
長々と話したカーンは、あぁ喋り疲れたと笑った。
北のように孤絶した場所ではない。
よくも汚染が落ち着いたものだ。
「一つに、元からあるコルテスの技術力の成果だ。
主要な地下水脈の元にて大規模な中和を行った。
これも技術面の事は秘匿されているようだが、大量の寄生虫と薬剤による物と推測されている。
この中和により、毒はオンタリオ周辺で沈殿し、下流地域への汚染の広がりは食い止められた。
現在も寄生虫が、この有害物質を分解し、己が死骸によって無毒な物へと変えている。
いずれ、当事者がすべて代替わりする頃には、土壌も生まれ変わっているはずだ。
それでも鉱毒が広がる速度は素早かった。
中和剤が作られ撒かれる頃には、既に大量の動物が死に、家禽は腐り、人も死んだ。」
「そもそも、その毒の始まりはどういうものだったのですか?」
「北のコルテスの鉱山地帯は、北東方向のシェルバンの山々とも地続きだ。
技術力の高いコルテスは、鉱山開発では抜きん出ていたし慎重だ。
鉱毒対策もなされていた。
だが、隣人は技術力どころか、常識が欠落している輩だった。」
「なるほど」
「まぁそういう事だ。
鉱毒対策もしないで地盤を壊して回った誰かのお陰で、大きな地下水脈が死んだのさ。
位置的には、シェルバンの山奥だな。
オンタリオを含めた湖沼は、そことも繋がっていたんだ。
だからこそ、コルテスはお咎めなしだし、その何処かの誰かは、これ以降、零落し続けている。」
「そうですか、でも、その何処かの誰かも領地が荒れて苦労したのでしょう?」
「何処かの誰かは、何人下民が死のうが気にもしないし、未だに鉱毒の原因はコルテスだと主張しているな。
毒対策に賠償金をと一番最初に騒いだのも、その何処かの誰かだ。
盗人猛々しいという奴だな。
俺でもそんな面の皮はもってねぇよ。」
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