第514話 遡上 ⑤
「昔はいたんですね」
「過去、ここは絶滅領域になりかかった。
それを技術によって、人が暮らせるまでに戻した。
汚したのも清めたのも、人間様って訳だ。
その所為で、このマレイラの生物分布は変化した。
今現在も、大型の肉食動物や哺乳類は自然に繁殖できない。
土や水に残存する微量の鉱毒物質によるものだ。
これが小型の動物になると、寿命と蓄積率が均衡を保ち、繁殖に影響がでるまでには至らない。
代わりに、これを捕食する大型の物が残留濃縮された毒で死ぬ。
ただし鳥類と主にこの地域で家畜とされるラプンという豚は、消化器官の違いから鉱毒の影響から逃れている。」
「人間はどうなんです?」
「無毒化する技術は既にある。
鉱山で元から利用されていた公害対策の一つに、寄生虫を体内に取り込むと、重金属汚染物質をそのまま体外に排出するという効果が認められていた。
この寄生虫研究から、土壌などの環境汚染の浄化も成功したんだ。」
「もしかして、水の中の寄生虫ですか?」
「風土病の元とされているが、飲水から虫を駆逐しないのは、鉱毒被害を軽減するからだ。
大地の薬ともいえる。
病気の元であり、毒対策の薬でもある。
だから、水に対しての積極的な駆除や浄化を行わないのは、それよりも毒が深刻な問題だからだ。
東マレイラ人の寿命を削るのは、風土病ではなく鉱毒なのだ。
だから土地の人間、マレイラの者は、生水を飲むように推奨している。」
「感染症の原因と毒素の排出。
抗体ができれば、逆に有害な物を濾過できるという事でしょうか。
ですが風土病で病みついてしまっては本末転倒では?」
「勿論、不確実な免疫ができるまで病に罹り続ける等という方法をとってはいない。
現地民、東マレイラ人は、過去、領民全てに対して大規模な肉体加工が施された。
寄生虫適応の為の濾過器官を、形質として残せるようにな。
生水を飲むのは、薬代わりというわけだ」
「それってどういう意味ですか?よくわかりません」
「うん、そうだなぁ、どう言えばいいのか。
俺も医者じゃねぇからなぁ。
水を飲んでも問題ないように、寄生虫と共存する為の濾過臓器を作った、か?
つまり、重要な部分へと虫が入り込まないように体を変えた、って意味だ。
それも親世代だけでなく、その子々孫々に遺伝できるように体を作り替えた。」
「そんな神のような事ができるんですか?
いえ、それよりも住民すべてになんて」
「住民ではない。
東マレイラの領民だけだ。
この地が人族長命種の領国だったからできた話だ。」
「亜人族も獣人族も除外ですか?」
「獣人には必要がないし、亜人族も寿命によっては、毒で死ぬよりも寿命で死ぬ方が早い。
公王専属の命の館の技術を使えたのも同じ理由だ。
命の館ってのは、この国の最高技術を保持する医療研究機関だ。
肉体加工技術、公王の作成技術を主に担っている。」
「不敬な発言は聞き流しますけど、何か怖いです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます