第585話 一夜の宴 ⑤
私達は奥には向かわず、再び中に戻った。
先に内部をミア達が調べているので、外を動き回ると逆に邪魔になるからだ。
焚き火に薪を足し、もう一度温まる。
館の1階はあらかた調べ終えたようだ。
階上へと調べを進めているようなので、私達は男達の寝起きしてるという部屋の方へと向かう。
広間階段の右手だ。
扉を見れば簡単なかけ金の鍵。
これでは防犯の意味がない。
もちろん部屋の中の人間にとってのだ。
かけ金の鍵が内側なら、防犯になるだろう。
だが、外側にあるのでは中の人間にとっては、意味がない。
これでは牢屋だ。
寝起きしている男達は、扉の鍵が閉まっていれば安全だと考えているのだろうか。
男達は外に出ないでやり過ごしたつもりだろうが、これでは扉の意味さえない。
意味があるとすれば、感化を与える為の舞台装置だろう。
何も難しく考えずとも、想像できる。
外から鍵を閉められると、どんな気持ちになるか?
閉塞感だけではない。
恐ろしい可能性に気がつく。
人里離れた場所。
隔絶し、この場所に自分がいる事を誰も知らない。
何が起きても、助けは来ない。
報酬のことばかりに気を向けていたが、現実を思い出す。
と、外に出なかった男達の言葉にもある。
では、外に出た男達はどういう気持ちになったのか。
これもまた、想像がつく。
人は駄目だと禁じられると、逆の行動をとりたくなるものだ。
外に出るなと言われれば、外にでたくなる。
閉じ込められた。
何も語らぬ雇い主と使用人は、何を秘密にしているのだろう?
もしかして後ろ暗い事、金儲けの種はもっとあるのではないか?
まぁ暇だし、ちょっと調べてもいいだろう。
と、まぁこんな具合か。
前者は逃げ出す事を阻止する為に恐怖を与え。
後者は自ら禁を破るという行動をさせる。
小さなかけ金。
カチャリと下ろされる毎夜の行為によって齎されるのは心の変化だ。
見たところ魔の痕跡は無い。
だが呪術を正しく理解した、人の心をよく知る罠だと思う。
呪術とは自ら選ぶ事で強く作用する。
それが恐怖であれ好奇心であれ、自ら望む事が必要だ。
自ら望む事こそが、強固な感化を齎す。
そしてこの方法は呪術では当たり前の事である。
自ら名乗る。
自ら選択をする。
自ら招き入れる。
という具合に、この自らという部分が、呪術の効果を高める。
普通の賊徒に襲われたなら、男達は誰一人として残っていないだろう。
だが現に、この外側にかけ金の付いた薄い扉一枚で男達は生き残っている。
つまり普通の賊徒に襲われたのではない。
呪術の方法論が作用していると見ていい。
彼らが生き残る事で、それを証明している。
自ら扉をあける事。
それが払う労力という訳だ。
『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます