第101話 幕間 精霊の娘 ③

 そういえば、と、思い出した事がある。

 獣人けものびとには獣面じゅうめん、自然の生き物を真似た部分がある。

 人族ひとぞくがよく差別の引き合いにだす、自然の生き物を真似た肉体の特徴だ。

 獣から進化したの、獣の血が入っているのといわれるが、これは差別主義者の戯言たわごとだ。

 厳しい環境に適応した結果の種族特性、擬態ぎたいが真相である。

 自然動物が人間になったわけではない。

 獣人は人間なのだ。

 何がいいたいかと言えば、獣人に種族特性、生きるための力として擬態能力があるように、それぞれ他の人間種にも同じように特性が備わっている。

 それは亜人とよばれる小種族にもだ。

 なれば森の人、精霊と呼ばれる人にも特徴はあるのか?

 精霊が架空の存在でなければだが。

 森の案内をした男のほら話が続いたのも、実は種族特性の話題が先にあった。

 カーンの叔父は、立派な獣面の持ち主だ。

 それも重量獣種とよばれる戦闘種で体格も良く、ましてや先祖返りと呼ばれる獣面だ。

 つまり二足歩行の大型肉食獣の姿。

 先祖返りは擬態が本性で、人族種の姿がとれない。

 そこでほら話に勢いがついた。

 東部地域の長命種人族の価値観だと、卑しい獣人と蔑まれる事が多い。

 それが南部獣人種の支配地域では価値観が逆転している。

 つまり、叔父は大人気だった。

 先祖返りの強い男を前にして、神の寵愛を受ける精霊と同じく恩恵深い姿だと称賛。

 それが最終的には、精霊とはなんぞやとの会話にいきついた。


 精霊様は様々なところで暮らし、潜んでいる。

 見つけたら大切にしなければならない。と、宣う話手。

 じゃぁどうやって見つけるんだ?

 という暇つぶしの会話。

 それをカーンは思い出した。


 (精霊は、美しい姿をしている?

 美しいねぇ、それじゃぁ美人は、皆、精霊か。

 飲み屋のお姉ちゃんも精霊様かよ。

 何か、もっとずばっと見分ける方法ないのか..?)


 カーンは足を止めた。

 そして、ため息を吐いた。

 何を考えているのだろう。

 考えがどんどん逸れていく。

 どうしたものか。

 肩に乗る娘の顔を見る。

 分厚い外套に毛皮の頭巾、それに暖かそうな耳あて。

 その耳あてが少しずれていた。

 それをちらりと見てから、ズレを片手で引っ張る。

 兎の毛皮か、とても暖かそうな耳あてだ。

 唯一、少女らしい可愛らしい品だ。

 ちゃんと娘だと見てみれば、なぜ、間違ったのか不思議でならない。

 きっと自分の眼は腐っているし、馬鹿で間抜けなのは治らないのだろう。

 その耳あてのズレをなおす前に、何の気なしにカーンは指で持ち上げた。

 ひょいと持ち上げて、何事も無かったように元に戻す。

 そして再び歩き出した足取りは、それまでよりも早かった。


(精霊の耳は、人族より少し尖っているんですよ。

 可愛らしい耳で、きっと神様の声がよく聞こえるようになっているんですよ。

 だから、旦那方。

 もし、耳の少し尖った人を見つけたら、気がつかないふりをしてくださいな。)

(何でだ?)

(精霊は人に幸福や楽しい事を運びなさるが、代わりに相手の不幸を背負ってしまうんですよ。

 不幸を背負ってしまったら、儚く消えてしいますからね。

 いてもらうだけで良いことが起きるんですから、そっとしとくのが肝心ですよ。)

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