第179話 赤い赤い ②

 サーレルは封蝋をした手紙を、侯爵の伝令兵へと渡した。


「必ず、返信を貰ってください」


 受け取ったのは、やはりラースと同じ黒鉄の兵装の男だ。


「ところで、侯爵殿の病の原因は何です?」


 遠慮の無いサーレルの問いに、侯爵はラースを見た。


「毒の反応は出ませんでした。

 しかし、未発見の毒という線が一番濃厚です」

「というと、もしや侯爵殿以外にも同じ症状の者が?」


 ラースは返答にきゅうする。だが、侯爵が再び促した。


「氏族の方々に、数名。そして領内では結構な数です」

「伝染病や既存の疾病では?」

「気付かぬ内に、我々は攻撃を受けていると判断しています」

「どういう事でしょうか?」

「ある日、健康だった者が肺炎になります。

 医師を招き治療する。ですが治療のかいなく臓器が萎縮し衰弱死。

 また、ある者は腹に腫瘍があると医師が診断し、治療しますが治療のかいなく、臓器が萎縮して衰弱死します。

 熱が出た。

 切り傷があった。

 皮膚が爛れた。

 体が痛む。

 皆、最後に臓器が萎縮して衰弱死に至るのです」

「その医師は?」

「領内、領外、王都からも招きました。

 疑いがはれるまで、関係の無い医師を呼びました。」

「..水場は調べましたか」

「侯爵様が倒れた時に、水回りや食料をあらためました。」


 ラースの説明によると、侯の息子の事で氏族が集まり、葬儀についての事々で話し合いがもたれた。

 すると話し合いの途中で侯が倒れる。

 当初は、心労によるものかと思われた。

 症状は、倦怠感に微熱。

 しかし、医者の診察を受けるも、長命種に病無しとの為に様子見となった。

 ところが、次の日には他の症状も出始めた。

 指先に痛みと痺れを覚え、さらに時が経つと関節に痛みが奔る。

 仰臥ぎょうがする事もままならず、やがて一週間ほどで、意識が混濁こんだくした。

 この時の医師の診断は、流行性の感染症。

 誤診を危ぶみ、王都からも医師を招いた。

 そのかいもあってから、四日ほどで意識を回復。

 ところが、全身の震えと臓腑の萎縮、意識の混乱が続く。

 症状から、病よりも毒物の影響ではないかという話になった。


「王都から医師と薬学者を招きました。

 毒物の検査も行いましたが、何も発見できませんでした。

 意識の混乱だけは落ち着きましたが、その分、臓器の萎縮が始まっています」

「軍部へ打診しましょう。毒物は専門です」


 それにラースは深々と頭を下げた。

 もう一通書きますか、と、サーレルは筆を取る。


「遠慮せずに食べなさい。もう少し時間がかかりそうです」


 サーレルにまで促され、進退きわまる。

 私は恐る恐る、エリの分も食べてしまおうと手を伸ばした。

 すると横からエリが、お茶の杯を掴んだ。


「エリっ!」


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