第677話 挿話 兵(つわもの)よ、剣を掲げよ盾を押せ (下)前⑬
「シェルバン公爵の本拠地と二人の息子の街に入る事は、ほぼ不可能。
近隣の村へと行商を装い渡り歩かせたのですが。
まぁナシオには言いましたが、始末される者が多数。
仕方なく帰還を優先し、持ち帰れるだけの情報を得た訳です。」
サックハイムに向けて、サーレルはニッコリと笑顔を浮かべた。
「旅の行商などを装わせたのですが、どの村落でも盛大な歓迎を受けましてね。
ボフダンの方々が引き上げたのも頷けました。
純人族では無い、等との言いがかりをつけて追い剥ぎですよ。
因みに、揃えた配下は長命種の者です。
純血統云々で言えば庶子出身者ですが、本当の長命種だったんですよ。
もうねぇ、あまりの野蛮さに、フフッ笑えました、フフッ」
使者の前で笑うなと、イグナシオは相方を小突いた。
「前から不思議に思っていたが、血統を見極めるなど、普通の者にはできまい?」
「神官や巫女などの神のご加護をお持ちの方々だけですよね。まぁ名が見える他宗教の神官位の方もいらっしゃいますがね。」
「どうやってマレイラでは名付けを行っているんだ?」
サックハイムは、やるせない表情を浮かべた。
「普通に、親や氏族の長が、子供に名前をつけるだけです。
別段、血統や何の血が混じっているかを知る必要は無いので。
マレイラは元々単一の民族集団でしたから。
それに異族は少数で、姿形で異族の血だとするぐらいでした。
身分の垣根が重要で、そこに種族はありません。
中央のお考えと差はないでしょう。
例えばですが、身分でいえば、伯父上の血がなんであっても揺らぎはしません。
混血であったとしてもです。
伯父上の子が跡取りで、次の頭領という仕組みは種族、性別などでは変わらないのです。
血よりも身分の垣根は越えられないほど高いという事ですね。
ボフダン人の考える純血統主義とは、花の原種を尊ぶだけで、何が貴種として、世に残せるかが重要なのです。」
「良い例えですね。
文化や血筋を大切にしようとするのは間違いではありませんが、それを排斥の理由にするのは愚かです。
案外、一番血統を気にしていなかったのは、マレイラの先祖だったのかもしれませんね。
中央が神聖教を主軸に置くのは、結局、一番種族にこだわっているからでしょう。
さて、血統の話はこれくらいにして、本題に入りましょうか」
森の木立に隠れ潜み、関壁を眺める。
「シェルバン内地では、長命審問の他に、変異体の騒ぎが既に起きていたそうです。
北の村から徐々に、その暴力沙汰が南下しているようで。
流石に、情報が封じられているとはいえ、シェルバンの民草にも話が伝わり始めていました。
まぁシェルバン公の焼き討ちの方が重大な話題でしたが。
で、共通のうわさ話とやらを仕入れた訳です。
変異を起こす前に、井戸の水が濁る。
次に頭のオカシイ男が現れる。
それを見た住人の内、数人が同じようにオカシクなる。
怪談話ではありませんよ。
まことしやかに流れる危険情報とやらです。
村人は井戸の水を見張り、余所者を警戒していました。」
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