第329話 群れとなる (上)③

 輝く瞳は、明るい陽射しのようであった。

 その神気は、己に侍る闇を浮き上がらせる。

 約束は、グリモアと結ばれた事だけではない。

 グリモアを得た私を、宮の主は見ているのだ。

 私の人生の選択を見ている。


「神官様、私の魂が消えたら、体を灰にして欲しいのです。」


 伝えられる事を伝えよう。

 カーンを見上げ、その瞳を再び見つめる。


「ボルネフェルト公爵は、自ら滅んだ。

 グリモアに喰われ、神に慈悲を願った。

 だから、何も残っていない。

 そして力は私に継がれた。

 同じになるのが怖かった。

 死ぬのも、狂うのも怖かった。

 誰かを殺したくなかった。

 だから黙って、逃げるつもりだった。」


 死を選ぶことはできる。

 けれど生きて足掻かねばならない。

 悩み苦しんだ末に、選ばねばならない。

 約束したから。

 地の底の神と約束したから。


「ごめんなさい。嘘つきでごめんなさい」


 それから目を回し、私は吐いた。

 吐くのが苦しくて泣いたのか、泣いたから吐いたのかわからない。

 どちらにしろ情けない醜態をさらし、場を汚した。

 神官ともども後始末にかかりきりになり、昏倒した私以外を騒がせた。

 私は再び、豪華な布団に押し込められた。


「医者が来るまで喋るんじゃねぇ。

 瓦礫に潰されかけたガキが、狂人と同じになるだと?

 俺の耳は腐っちまったのか、あぁおい」

「私の言い方がまずかったようだ。

 あぁお前達、私の荷物から薬箱を。

 お湯も一緒にもらってきておくれ」

「ともかく、あの狂人に何かされたんだな?

 クソが、死に際まで傍迷惑すぎんだよ。

 勝手に死ねばいいのによぉ」

「診察をしてもらうから、お前達は外へ出ていろ。

 女の子なんだから、女衆を寄越すように。

 ほら、泣くと体力が減る。

 耳に入らないようだね、しょうがない、何度も言うぞ。

 君は、

 いいかね、

 この神使えで天才神官のが、主の名をもって宣誓し、断言しよう。

 君は、人を殺すような狂人にはならない。

 君は、絶対に、ならない。

 君が君である限り、君は、グリモアの傀儡にはならない。

 この天才で大陸一の神官様が、断言しているんだ。

 君は、大丈夫なんだ。

 ほら、泣かない。

 カーン、又、吐きそうだ。体をおこしてくれ」


 情けない。

 結局、自己憐憫と悲鳴をあげている。

 私は泣きながら、恥ずかしさに自分を罵るしかなかった。

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