第521話 運命の糸車 ④

「旦那は、以前、このあたりに来たことがあるんですか?」


「地形を把握する為にざっとだがな。

 砦の者も、頻繁にここまでは来ない。

 来る必要がないってのもある。

 この北西よりの場所から、人が来るとすればコルテス人のみだ。

 そのコルテス人も内地都市から、このオンタリオに来るには、険しい山を超えねばならない。

 そしてオンタリオ西側は王都近くまで、水場のない不毛の荒野だ。

 それも金属と塩を含んだ岩肌のな。

 ある意味、東は中央平原から孤立しているんだ。

 否、違うか。

 王都がぐるりと自然の壁で囲まれているのだ。

 飲める水場を選んで旅すれば、自然と街道は南下する。

 それはアッシュガルトから更に東に進む場合もだ。

 コルテスの山は険しい。

 人が移動するとなれば東の街道沿いから回る。

 だから兵士の配置場所も巡回場所も、思うより狭い。

 城塞があの場所に築かれたのも、海路であれ何であれ、あのアッシュガルトを経由する事になるからだ。」


「王都東にみどりがないとは知りませんでした。」


「緑はある。

 だが、人間が頼れる水場と緑が無い。

 あまり知られていないが、王都ミリュウは耕作に向かない場所なんだ。

 古い遺跡の上に立つ都だが、そこに王都を築いたのは、誰も手に入れたくない場所だったからだ。」


「どういう事なんです?」


「誰も欲しくない場所だから、新しい国を作れた。

 いらない場所なら、誰の許可もいらないって訳だ。」


「知りませんでした」


「そりゃぁ建国記には、そんな現実は記録しねぇし。

 民にだって、王都は素晴らしい場所だって言うしかねぇだろ。

 現実は、水も飲めねぇ、農作業も牧畜もできないような場所だ。

 自慢にもならんし、暮らしたくもない。」


「でも、今は、違いますよね?」


「残念ながら、今もだ。

 まぁ空気はそこそこきれいだし、田舎と違って暮らしは便利だがな。

 今更だが、こんな話、面白いのか?」


「田舎者には面白いですね」


「何度も言うが、お前の田舎は、いい場所だぜ。

 さて、中央平原には多くの領地があるが、それは地面の下もきれいだからだ。

 だが王都は違う。

 王都の木々の殆どが、重金属で汚染された土地で枯れないものだ。

 水は全て浄水、北部水源地から引いた水になっている。

 井戸としながら、王都の水場はすべて浄水だ。

 内殻壁側の耕作地の土も、汚染されていない物を運び込んで作ったんだ。」


「地下水ではなく、他所から運んだ水?」


「それも浄水場できれいにしてから流しているんだ。つまり王都は土壌汚染が酷い場所なんだ。

 マレイラ鉱毒以前にな。

 ただ、マレイラの湖沼地帯との間の地盤は硬い岩盤層が遮っているので、地下水脈は繋がっていない。

 王都側の汚れた物は、マレイラに侵食してはいない。

 本来東はとても綺麗な土地だったわけだ。」

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