第111話 幕間 微睡み ②

 寄りかかる柱に背中が強張っている。

 カーンは肩や首を回しながら、後頭部に陣取る血の巡りが悪くなるような何かを感じた。

 雪下ろし程度では、体が鈍って気持ちが悪い。

 思考ばかりがカラカラと回り続け、熱を持っているかのようだ。

 それでもカーンは表面上は変わらず、カラカラと回る考えを追う。


 雪の具合で、帰路は倍の時間がかかる。

 中央に報告するにも、街道の状態しだいだ。

 街道を上り、オーダロンの中央門を目指す。

 手順としては飛ばして、直接、審判所へ持ち込んだほうがいいだろう。

 特別審判を全員で受ければ、手続きが簡略化される。

 そのままおさらばできればいいが、首の確認に早くて一日。

 処理が施された首の状態を確認してからの、貴人を招聘しての首実検に二日か。

 首の確認は後として、審判所から神殿へ厄落としに半日。

 状況報告と根回しの打ち合わせにはそれくらいの時間がかかるだろう。

 そこでやっと神殿承認と集合査問院での裁判書類を司令部に持ち込む。

 集合査問院裁判の人員任命に数日。

 書類仕事に数日。

 うんざりする行程を考えて、カーンは口を曲げた。

 世間の評判とは別に、人を殺して終わりの商売ではない。

 その殆どが書類を書き、人を使うという官吏まがいの雑務だ。

 毎日、どこかの村や街を焼いて回っている方が楽である。

 そうして全てが終わり、東に出発するのは年明けぐらいだろうか。

 年明けとなると、自分の在籍している師団は、王都の東に動いているはずだ。

 これは中央軍の循環という仕組みで、兵士の移動を四季ごとに行っている。

 中央王国軍南領軍団には十の兵団がある。

 王都に常駐する第一兵団第一、第一師団以外は、季節ごとに各地の防衛拠点を移動するのだ。

 ちなみに第二兵団の第一師団は、南領本部常駐であり情報処理が主な仕事だ。

 カーンが所属するのは第八兵団所属第八師団である。

 兵団の番数と師団の番数が大きくなるほど、構成人員はすべて重量獣種の大型獣人の集団になる。

 これは連隊にもいえる。

 第八の八の八といえば愚連隊と呼ばれる大型獣人の集団で、戦闘が激化すると、個別で遊撃と破壊を繰り返す。

 その中でも頭がオカシイ奴らが塵掃除を任される。

 今現在は無期限停戦中の為、表向きは第一兵団所属統括預かりで後ろ暗い仕事をしていた。

 元の所属では団長補佐という訳のわからない役職で残っている。

 それも第八補佐のまま、第八の臨時補佐だ。

 元々、第八の兵団長がバルドルバ卿であるカーンだ。

 そしてカーンは現在その席を辞任している。

 辞任し、適当な降格人事で気楽に過ごそうとしたら、妙な役職が再びつけられたのだ。

 兵団長補佐とは、兵団を引退した後の役職である。

 そして引退したあと、その兵団長席次を埋める人物は不在のままにされ、何故か師団長の臨時の補佐という訳のわからない場所に置かれた。

 それも兵団長補佐のままだ。

 下がったのか上がったのか微妙な立ち位置だ。

 師団長にしてみれば嫌な話だ。上司が補佐である。

 まぁこれにも理由はあるのだが。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る