第304話 幕間 呪われし男 ⑤

「呪いだか何だか知らんが、解くことはできないのか?」


 カーンが面倒そうに問うと、部下たちを面白そうに視ていたジェレマイアは肩を竦めた。


「死んでくれって感じでもない。

 急いで引っ剥がす必要もないと思う。

 俺も今は、腐土対策にかり出されてるしな。

 おやっさん以下の神官じゃぁ荷が重そうだ。

 面倒だし、そのままでいいんじゃね?

 加護っていったがよ、呪いと加護は神の場合は同じようなもんだからな。

 下手にちょっかいかけると、逆に死んだりするしよ」

「ボルネフェルトが関わっているようなら、調べねばならんのだが」

「俺が関わるのは呪いの方だけだ。

 関わり云々は、人間の行いの話だろう。

 気になって仕方がねぇなら、浄財積んでくれりゃぁ何とかする。けどよ、何とかするにも俺の手が空かねぇんだわ。

 繰り返しになるが、その辺の神官に手出しさせんなよ。

 神の行いに干渉すりゃぁ、それなりの神罰が返ってくる。

 神殿の人間を死なせたら、そっちのほうがお前らも困るだろう」


 つまり最高位の神官であるジェレマイアが、本腰を入れ時間をかけねば対処できないほど呪われているという宣言である。

 カーン以外の男達がどんよりとする中、ジェレマイアはお茶を飲むと書き上げられた書類を上から手に取った。


「俺の予想では、東南の腐土に向かうって思ってたんだがな。

 おやっさんと賭けしてたんだが、負けちまったよ。

 何で、北に向かったんだろうな」


 室内には筆をはしらせる音だけが続く。


「不浄の神が降りた場所だそうだ」


 ぽつりとカーンは返した。


「不浄の神?」

「不浄の神が現れて、理により没した場所だという話だ」

「北の文化史は、宗教統一前の物が殆ど焚書で消えてるんだよな。そうか、まぁ北は土着宗教や独特の文化が栄えていた場所だ。そうした神に近い場所ってのは、多くあるだろう。」


 新しい紙を受け取りながら、ジェレマイアは続けた。


「何も冬に行かなくてもいいものを。

 ん?この子供ってのは?」

「道案内の現地人だ」

「この子供はいくつ?」

「見た限り成人前だ。種族は知らん、亜人か?

 サーレルに連絡して、こっちに呼ぶ事になった。」


 それにジェレマイアは暫し考え込んだ。

 トントンと机を指で叩き、何やら表情が険しくなっていく。


「坊っちゃんところじゃなくて、こっちに寄越しな。

 子供をぶっ壊されたら叶わん。」

「何を言うかと思えば、審判が必要とのことだ。仕方ないだろう」

「お前、子供が同じ目にあって健康が損なわれないとでも思うのか?

 読み取りは神官でもできるし、虚偽かどうかなんぞ口頭の普通のお話し合いで十分だ。

 お前ら小汚い野郎がのたうち回っても何の損失もないが、女子供に苦行をかしてどうすんだ。愚か者が」


 そう小言を言ってから、ジェレマイアは躊躇うように付け加えた。


「それに、お前たちは仕事として、兵隊として覚悟しているからいい。

 だが、子供は別だ。

 こちらから調査が向かう前になるべく早く、連れてこいよ。

 お前らなら平気でも、子供はわからん。

 視て、どうするか決めよう。だからこっちに必ず連れてくるんだ。」


 それに意味を察して、カーンは弾かれたように顔を書類からあげた。


「子供もか?」

「お前たちと一緒に行って、帰って来たんだろう?」


 どうして子供だけ無事だと思ったんだ?おめでたいねぇ、お前ら。

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