第192話 食前の祈りの前に ③

 多彩な刃物や道具が並ぶ。

 すると、やはり混じっていた。

 幾つかの調理器具が赤いのだ。

 エリと私はそれを指さしていく。

 調理場は作業が中断され、使用人たちは不安にざわめいた。

 一山になると、木籠にまとめて入れる。

 使用人たちに、それぞれが使っている刃物や調理器具、水瓶などを裏に出すように指示した。

 道具類を裏に運び出すまで、私達は小休止となった。

 先に裏庭に向かう。

 調理場の裏手は、雑然とした雰囲気だ。

 焼却炉、塵置き場、煮炊きの用の石炭や薪の山。

 それでもそれなりの広さがあり、洗濯場と繋がっているのか干し物も幾重にも吊るされていた。

 日常の事を目にし、フッ気が抜ける。

 それとともに疲労と空腹を感じ、気分も萎えた。

 大事になりつつあり、それも恐れ気分を沈ませる原因だ。


「エリ、ご飯は当分食べられないみたいだ」


 そんな呟きに、サーレルは積まれた薪に腰掛けると言った。


「どちらにしろ、不明毒を食べたくはないでしょう。

 で、君は何で毒だとわかるんだい?」


 萎えた気分のまま、私は投げやりに返した。

 どうせ、本当の事を言っても、何の益もない。


「蛇神様のご利益ですよ」

「蛇神?」

「ラース様が教えてくださってでしょう。

 地母神様から、腐った魂が見えるようにしていただいたんです。」


 私のいい加減な答えに、エリが何故か神妙に頷いた。

 私は握ったままのエリの手をぶらぶらさせながら続けた。


「イグナシオの旦那なら、そう仰るのでは?」


 冗談とわかったのか、サーレルはそれ以上聞かなかった。

 ただ、ラースだけが私達をじっと見ていた。


 ***


 それぞれに持ち寄った刃物、食事に使われる道具が並ぶ。

 慎重に見て回ると、大凡の傾向がわかった。

 素材は金属、殆どが刃物。

 稀に、金属の柄杓ひしゃくなどが混じる。

 使用している者は、下働きから料理人、特定の個人ではなく使いまわしていたりもした。

 だが、持ち主に犯人がいる可能性は低いと思う。

 何しろ、使う本人が何れ死ぬ。

 選り分けて、使っている者、その品が何処から来た物か、関係性と関連を調べなければならない。

 簡易ではあるが、その場で聞き取りと記録が行われた。

 記録後に、それらの品は接収。

 見た目も何も、私やエリ以外だと、何も異常がわからない。

 到底、信じてもらえない話だ。

 根拠がエリと私の感覚による発言のみなのだから。

 けれど、領主たる侯爵が信じれば、全ては肯定される。

 それでも心配な事もある。

 エリと私を諸悪の根源とされる可能性だ。

 その方が領内の揉め事の原因を有耶無耶にできそうだ。

 そんな私の考えに、サーレルは先の侯爵への念押しと同様の答えを繰り返した。


「私達のに、そうした対応をする。

 我々、統括直属隊を軽んじるということですね。

 おもしろい。

 子供を保護し安着を願うというに対して、くだらない争いを処理できないからと、子供の所為にする?

 ふむ、確かにそうなったら、面白いですよね」

「勘弁してください」


 サーレルの輝く笑顔に、ラースが素早く返した。


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