第191話 食前の祈りの前に ②
私とエリは、その魚肉の汁鍋を覗き込む。
赤黒いモノが鍋一杯に踊る。
エリは、よほど匂うのか、私の腹に顔を押し付けた。
その様にラースは鍋に手をつけぬようにと、すぐに指示を出した。
「城全体の人員は、人族種と亜人が殆どです。ですが食事回数は合わせて三度となっています。」
人種によっては食事の回数が変わる。
共同生活が主体の城館では、平均をとって三回としているようだ。
なので次は、城全体を賄う厨房に急いで向かった。
特に、今まさに城で働く人々に振舞われようとする昼食を見なければならない。
口に入ってしまう前に、取り除かなければと急いだ。
仕事をする者、調理場の者、皆、私達を見て不思議に思いながらも動きを止めた。
礼をとる者、顔を伏す者、不思議と思うか、もしかしたらと思っているのか。
不安が彼らの間を広がっていく。
私達は、その中をゆっくりと見て回る。
見た限り問題なく、厨房に赤い色は無いかと切り上げる所で、それがあった。
部屋の隅、野菜屑の籠に、赤い文字が滲んでいた。
統一感がない。
汁物であったり、野菜屑であったり、侯の飲水と何が繋がりがあるはずだ。
それともやはり人なのか?
私とエリは台所を見回した。
何か繋がりがあるはずだ。
食材はきれいだ。
水瓶も問題ない。
「何?」
エリに袖を引かれて見る。
たくさんの調理器具、調理台の一つに赤が揺れる。
薄く切り分けられた燻製肉だ。
「これを切り分けたのは?」
ラースの問いに、料理人の一人が手をあげた。
その姿を見る。
特に赤くない。
「同じ作業を少し続けていただけますか?」
願うと料理人は水につけてあった包丁を取り出した。
刀身は、どす黒い赤い色だった。
私だけに見える禍々しい色。
料理人が燻製肉を切り分ける。
一切れ削ぐごとに、肉に文字が浮かんだ。
料理人の指にも這い上がる。
そしてじんわりとその体に入り込んで消えた。
食すよりは害悪は少なかろうとも、これはいけない。
カーンの言葉が思い出される。
使われた者も、使う方にも害がある武器。
「ここに繋がるのか」
思わずサーレルを伺う。
彼の表情は相変わらず微笑むだけで何も見えない。
ただ、私達が何を見つけたのか、わかったようだ。
少し目を細めた。
その様子に、ラースが作業を止めさせる。
「説明をしなさい」
思うより動揺が大きく、一瞬、言葉を組み立てられなかった。
料理人本人にも多大な悪影響を齎す代物だ。
知らぬで当人は使っている可能性が大きい。
「道具類を見せていただきたい。
それに道具を触らぬほうがよろしいかと。」
そこで厨房の調理器具をすべて見せてもらうことになった。
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