第183話 死にあらず ②

「冒険が終わるまで、飲食は差し控える事になります。

 申し訳ありませんが、それにお付き合いをお願いします。」

「こちらも、冒険とやらが終わるまで、何も口にしたくはありませんから大丈夫ですよ。

 あぁ、因みに、私、毒物耐性は非常に高いので、もし、口にしても死なないとは思います。

 知ってます?

 毒の耐性をあげるのには、一度、毒を摂取するのが一番なんですよ。

 私も死なない程度の毒を食事のたびに食べるんですけどね。

 最近は自然界の毒から、獣人でも致死や麻痺を起こす物を探していまして、今回の事も大変興味深いと思っています。

 そうそう獣人の兵士は毒耐性をあげるために、毒の摂取が奨励されていましてね。もし間違って口にしても、それに対しては不問にしたいと考えていますよ。」


 はっはっは、と、笑うサーレルに、軽口なのか本気なのか測りかねたラースが一旦口を閉じた。

 そして、聞き流す事にしたのか、領地内の情勢などの説明を始めた。


 運び込まれた荷物をときながら、私とエリは落ち着かない気分を味わう。

 この後、楽しくもない、冒険とやらに回るのだ。

 足元が砂地になったような気分、と、いうのだろうか。

 本来の目的、エリの身の振り方を決めるだけの話が、どんどん違う方向へ流されていく。

 本人や私の意見なぞ無しだ。

 それが本来の目的から外れていようとも、もしかしたらとも思うので、口を挟むまでではない。

 わかっているが、なんとも不安である。


「アイヒベルガーは、氏族運営の普通の地方貴族領です。

 頭領たる侯爵の発言、意志によって今までうまく回ってきました。

 政治的な事も何もかも、侯爵のお人柄と才覚で治められてきたのです。

 もちろん、行政面など多くの氏族が携わり、侯爵が没した場合も治世が揺らぐことはありません」

「嫡子が存命ならばですね」


 室内の調度を点検しながら、ラースは続けた。


「今、侯爵がお亡くなりになっても、問題はありません。

 ただし、内乱の気配が無いとは、否定できないのも事実です。

 ですが、もそれは既にのです。」

「継承順位で揉めましたか?」

「いいえ、我らの立場、もう既にのです」

「一部を除いてですか?

 たとえば、であるレイバンテール氏でしょうか?」


 甥ではなかった。

 そういう事か。

 ラースは力なく笑った。

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