第798話 挿話 黄昏まで遊ぼう ⑧

 一通り焼き、変異体の出が減ったので、家屋に入っては、それらしき出現場所を探す。

 水回りが特に怪しいので、井戸の中に入っての確認も行われていた。

 人手と手間がそれなりにかかる作業だ。

 スヴェンが言うところの塵芥虫を手早く始末しろと急かすのも、この作業こそが本筋だからだ。

 幸いにも、街中の大井戸は鉄の蓋と鍵付きで塞がれており、位置を確認するだけで殆どが済む。

 アッシュガルトの組合が水の管理をしていたためだ。

 水質を管理し汚濁や来訪者、主にこの地に保養に来る者への生水への注意喚起を徹底するため、普段は閉じられているのだ。

 街中の井戸を開放する事は滅多に無い。

 殆どが住宅地の共同井戸、小さな井戸に限られており、家屋の水場も含めて外には無い。

 それも人間ひとりが、中から這い出してくるような大きさではない。

 揚水機付きで濾過用の柵まである。

 最初に騒ぎに繋がった井戸は、鉄蓋の鍵が緩んでいた場所で、もしかしたら誰かが抉じ開けておいたのかもしれない。

 故に問題は外の井戸ではなく、家屋の中の物。

 それも古く石積で清掃の為の空間が中にあるようなものだ。

 地下の隧道に繋がっている物が怪しい。

 その隧道は今の時間は満潮で出入り口は海の中だ。

 引き潮で調べる事になるが、元々の排水路とも繋がっているのだから、街の方から手をつけたほうが早いだろう。

 変異体が活動する巣か、はたまた毒を撒き散らす教えを騙る詐欺師の隠れ家があるはずだ。

 まぁその詐欺師である人間が果たして変異体に食われずにいられたかは、あやしいものが。


 兵士たちが一軒一軒探索する中、スヴェンはウォルトと別れ、街の本通りを歩いていた。


 気楽な風情なのは、変異体が複数来ようが、元はその辺りのぼんくらな奴らだ。

 駆除すると決めてしまえば、彼にとっては本当に眼の前の蝿程度の話だ。

 証言させる口を求めなければ、叩き潰して終わりである。

 そうして彼は巣穴を探して、気楽に歩いていた。


 巣穴。


 街のどこかに巣穴があるのではないか?

 とは、エンリケの言葉だ。

 変異体が最終形態ではない。

 変異体が意思をもって行動しているのではない。

 寄生虫が繁殖する為の苗床としているのだ。と、考える。

 その苗床が活動限界を迎えると、最終的には水場へと帰るか、または、完全な固定種として新たな育成循環をする場所を作るのではないかという仮説をたてていた。

 今回の変異体のもとである寄生虫は特殊個体だ。

 本来は絶滅危機に対しての繁殖防衛をするために生み出され、正常な次代が繁殖を始めれば死滅する。

 しかし、正常な個体が減ったわけでもなく現れた特殊個体であるならば。

 独立した種として確立を目指しているのではないか。

 今までの無害な寄生虫の生命循環からはずれ、独立するつもりではないか?という考えだ。

 哺乳類を介した昆虫への変体とでも言えばいいのだろうか。

 つまり、スヴェンとしては、害虫が巣を作って子供を産み付けて増えるんじゃないか?という意味に受け取った。

 三公領主館へと抜ける街道も、地上部分は潰した。

 それ以外の自然の荒れ地を通るとしても、監視巡回は続けている。

 蛆虫のようにわいて出てくるというのなら、苗床や巣があるのは当然だ。

 それも街のすぐ近くとなれば、後は地面の下の水路だ。

 どこかにデカい蛆虫がいるのだろう。

 本気でスヴェンや仲間が探索すれば、探せないことも無い。

 だが、これも城塞の馬鹿どもへの課題であり、救済のひとつだ。

 それに気がついてもいないだろうが。

 愛と奉仕を掲げるというのなら、ここで蛆虫を掘り起こしてせいぜい、自分が蛆虫の苗床にならぬように足掻かなくてはならない。

 それでも一応のあたりだけはつけるべく、スヴェンは街を散歩しているわけだ。

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