第222話 真実という名の欺瞞 ⑤

「エリカの家族は、村から出たいと願っていた。

 グーレゴーアの話にのったのも、こいつの親と姉だ。

 アレンカの親も、孫といっしょに外へでたがった。

 それが対立を呼んだ。

 村は二分し、エリカへの態度も割れた。」

「何故だ?」

「隠され子は、シュランゲの特別な武器を作る時の儀式に必要だった。

 神と繋がる儀式に、エリカが必要だった。」

「神」


かんなぎ、神の依代となる子供だ。

 神と人の間をとりもち、話をする者の事だよ。

 シュランゲの毒とは、神から与えられたなのさ)


「アレンカは、婆様に学んだというのに、すべてが嘘だと言いのけた。

 馬鹿げた因習が人を縛っている。

 隠され子などという忌み子を崇めるのは、間違いだ。

 村に縛られている原因は、エリカと婆様の所為だとな。」

「矛盾していないか、彼女は自分をエリと同じと考えていたんだろう?」

「自分が特別だと思っていた。

 だが、特別は一人だから特別だ。」


 エリは、耳を塞ぐ男を仰ぎ見る。

 それにちょっとフザケたように笑うと彼は続けた。


「エリカを売り払おうという奴もいた。

 山に置き去りにすればいいと、死なせようとする奴もいた。

 一番酷いのは、こいつの親だった。

 自分の子供だと思っていなかったんだろうな。

 もし婆様の追手がかかったら、エリカを囮にするって言い出したのは、こいつの親だ。

 皆、自分勝手だった。

 自分の幸せばかりを追っていた。

 そこにアレンカから、金属を奪う話が持ちかけられた。

 元凶さえなくなればいいのでは?とな。

 今考えれば、馬鹿な誘いだ。

 エリカの姉でさえ夢を見た。

 馬鹿な話しさ。

 問題は、婆様の仕掛けだ。

 両親と姉は、エリカを捨てる事を決めた。

 地獄に落ちても当然だろ。

 エリカの姉は、イエレミアスと一緒になりたいがため。

 だが、現実は村から出ようと変わらない。

 俺が手を貸したのは、どうせ、外に出れば夢から覚めると思ったからだ。

 イエレミアスは、まっすぐな奴だ。

 エリカを切り捨てるような奴を愛する事は無い。

 それに俺も、心の隅で村なんか消えればいいと考えていた。」


 それから青い男は、嗤った。


「嘘だよ。

 皆、嘘だよ。

 だから俺は、もう謝らない。

 俺が皆、悪いんだよ。

 さて行くかな。

 俺達を殺すにも、彼奴等を殺すにもエリカが必要なんだ。

 俺は悪党だからな、ほら、行くぞ」


 青い男は、エリの手を無理やり握ると、闇に踏み出した。


「駄目だ!」


 暗い影に呑まれると、その姿は一瞬で消えた。

 間抜けにも、私の手はエリをすり抜けた。

 

「勝手に、エリを巻き込むなよ、なんでだよ」


 無駄な言葉に、叫びたくなる。


 やっと助かったんだぞ。

 やっと生き残ったんだぞ。

 その子を連れて行ったら駄目じゃないか。


「あぁ、こんなの酷いじゃないか」


 もどかしい、もどかしい、暗い夜が厭わしい。

 冷たい何かが組み上がる。

 くだらない、くだらない。

 と、断罪する声が腹の奥から響く。

 しんと静かに冷える頭の中に、鋭い何かが起きあがる。

 ふと、あの男の言葉が蘇る。


「死んでる癖に、図々しい」


 怒りに震えながら、闇に手を伸ばす。

 そうして、人の道から足を踏み外した。

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