第483話 挿話 ビミィーネン、その日々

 時々思うのだ。

 これは夢なのだと。


 ***


 帰ってみれば教会は暗く、彼女は居なかった。

 私は部屋に入ると、すぐさま灯りをつける。

 彼女は今頃、どうしているのだろうか?


 彼女は、巫女見習いだ。

 種族は何かの混血だと思う。

 亜人や獣人とは、少し違う。

 初めて見た時、あれに似ていると思った。

 人族の子供が持っているお人形。

 誕生祝いに作るお祝いの品。

 人形師という職業もあって、無事に育つようにと贈る品。

 大概は、お姫様や妖精、お伽噺に出てく少女の形をしていた。

 彼女を見て、思った。

 青白い頬、硝子のような瞳、長い髪。

 表情は乏しくて無口。

 部屋の隅に置かれた人形みたい。

 そんな彼女は病気だった。

 怪我をして体が弱り、風邪を拗らせた。

 そう紹介されて、私は思う。

 お人形のような子、可哀想な子、でも、ここで又、死なれたら嫌だな。

 ここに来た人が又、死んだら困る、って。

 私は嫌な奴だと自分でもわかっている。

 でも、これ以上、家族が嫌な目にあう姿は見たくなかった。

 けど。

 そう思っていたけど、彼女が生活に加わってみると、そんな考えは消えた。

 考えてみれば、女の子同士で口をきくなんて何年ぶりだろう?

 とても、楽しかった。


 ***


 あの男が、彼女を拐い隠した。


 不思議だった。

 あの男が恐ろしくないのだろうか?

 人を生きたまま燃やすような男が怖くないのだろうか?

 寂しそうに項垂れた彼女を抱えると、あの男は浜を歩いて行ってしまった。

 お陰で街は見れなかったが、いなくなってホッとした。

 それから午後になり、街から帰ってくるのを遠目に見て。


「よかったわ、離れてはいけないものね。

 ひとりでいては、いけないわ。

 きっとアレが気がつくわ。

 場所はわかったのに、でも、きっと大丈夫ね。

 そうね、きっと今度は間違えないわ。

 持ち出されなければ、元に戻れるもの」


 母さんのいつもの独り言だ。

 時々、意味が拾えない言葉を言うけれど、あの子を心配していたからだろう。

 二人の姿を見て、微笑んでいた。

 何事かを話しながら、二人はゆっくりとこちらに向かってくる。

 やはり彼女は少し寂しそうだ。

 でも、男を怖がっていない。

 それに男もだ。

 仲がいいんだね?

 知り合いだった?

 油断しちゃ駄目なのに。

 突然、集会所から飛び出してくると、馬に乗って行ってしまった。

 彼女を抱えた姿、片手は口を塞いでいた。

 あの男は、何をしている?

 彼女は泣きそうな顔をして、男の顔を見ていた。

 大きく目を見開いて、男の顔を見ていた。

 その男の形相は、あぁどうしよう。

 あの男は突然、彼女を抱え出ていった。

 恐ろしい顔をして、彼女を抱えていなくなった。


「始まるわ、これでやっと、自由ね」


 母さんの呟き。

 いつも支離滅裂。

 それも皆、あの男の所為だ。

 私は知っている。

 あの男は、人を殺すのが好きなんだ。

 だけど、あの男は偉大な者と讃えられ、父さんは卑怯者となった。

 父さんは、皆の為に戦ったのに。

 裏切られ、罪人として処刑された。

 あの男が原因で争いが起きたのに。

 疫病さえ起きなかったら、父さんが悪人にならずにすんだのに。

 悪い奴らをやっつけたのは、父さんなのに。

 皆を殺したのは、あの男なのに。


 ***


 でも、本当はわかってる。

 誰が悪いのか。

 何が駄目だったのか。

 ねぇ、オリヴィア、泣いていない?

 大丈夫?

 私は、泣いていないわ。

 大丈夫よ。

 少し、お話がしたいの。

 泣いていないけど、一人じゃ耐えられそうもないの。

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