第484話 挿話 ビミィーネン、その日々 ②
父さんが死んだ後、ずっと下働きとして兵隊の移動について回った。
南には居場所がなくて、最初に逃げた場所で見つかると、父さんのように捕まった。
母さんとは別にされた。
尋問も受けたけど、逃げている時より怖くなかった。
誰も殴らないし、誰も怒鳴らない。
それだけで十分。
普通にご飯が食べれて、寝てる内に暴力を振るわれたり殺されないように隠れる必要もなかった。
寝ても、死なない、大丈夫、これで大丈夫。
そう思う自分に泣けた。
父さんや母さんに申し訳なくて、よく泣いた。
暫く牢屋に入れられていたけど、一人だったし嫌がらせもなかった。
寂しいって思うより、生き残ったって。
それだけだった。
そして父さんが処刑された後、軍隊の下働きに入った。
労働刑って事だけど、私は子供だったから普通だった。
普通?
そう、自分の食い扶持を稼ぐ孤児と同じ扱いだ。
仕事は単純で、怖いことも無い。
皆に囲まれて、石を投げられる事も無い。
だけど、それでもひとりだった。
言葉や態度には出さないけれど、嫌われているのはわかる。
皆、私と関わりになるのを嫌がった。
一度、同じ歳の子に言われた。
悪口は言わない。
でも、親しくするつもりもない。
貴女が生きて、笑顔で暮らしているのを見たら耐えられない。
そんな貴女を許している自分、貴女を受け入れてしまう自分。
そんな自分は許せないし、貴女を殺したいと思ったり憎いとこだわる事も耐えられない。
だから、仕事以外で話しかけないで。
一番、私を庇い、仕事を手伝ってくれていた子だった。
慣れない仕事を教えてくれて、集団の中で陰口を言わない子だった。
その事に礼を言っての返答だった。
後で、お節介にも意地悪を繰り返す子から聞いた。
あの子の母親は、城で叛乱兵に殺された。
領主代行の一族に使えていたから、一緒に殺された。
正義の為だと、城で働く者を女子供関係なく殺した。
貴女の父親の所業は、畜生以下ね。
あの疫病の元は、その殺した女子供の遺体を城の前に放置したからでしょ。
死体を食べた鳥や鼠が、疫病を広げた。
元々、流行病の兆候はあったけど、最初の城攻めの時に泥棒みたいに城を荒らして、そのまま城下や近隣の街々を壊して回ったから。
その城下の人々、武器も持たない人々をよ、狂ったように殺して、お金を奪って死体を放置した。
そういう奴らを何ていうか知ってる?
少なくとも兵ではないし、単なる無法者よね。
貴女の父親が通ると、腐った死体が残る。
戦争なんてそんなものかも知れない。
だけど本当は叛乱じゃなかったんでしょ?
皆言っているわ、民を殺すことが目的だったってね。
あの土地は王家差配預かりの場所だった。
元の御領主に申し出れば、首をすげ替える事なんて簡単だったって。
叛乱なんて必要なくて、領内の主だった氏族の同意が得られれば、簡単に代行の貴族はいなくなったって。
皆、知っているのよ。
あの地方の同じ種と氏族を根絶やしにしたかっただけなんでしょ?
政治だって言う人もいるけど、違うわ。
貴女の父親は、頭が狂っていた。
違う?違わないわ。
あの地方に暮らす人々を、貴女の父親は汚れた者共って言っていた。
そしてどの血族の者かを確かめてから殺して回ったってね。
それも体をバラバラにして、中身を地面にまいた。
家畜を殺すように民を殺して回った。
ねぇ、あの子の母親は叛乱兵とやらに殺された。
それだけじゃないのも、本当は知ってるんでしょ?
あの子の家族はいない。
どうしてだと思う?
あぁ私の家族も居ないわよ。
どうしてだと思う?
ねぇ、どうして生きてるの?
なんで生きてるの?
ねぇ、皆、知っているのよ。
貴女が...
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