第138話 窓の外 ②

 その子供は、歳の頃は七つ前後か。

 やせ細り、血と汚れでごわついた髪色は砂色に白が混じる。

 白っぽい髪色に、深い藍色の瞳。

 痩せこけた頬に肉が戻れば、垂れ目の可愛らしい少女だろう。

 サーレルは、ゆっくりと洗い流し温める。

 怖がらせないように、つねに話しかけてから子供に触れている。

 洗い流し拭き上げてと、私よりも子供の世話がうまい。

 その手慣れた様子を聞けば、彼には弟妹がいるそうだ。

 歳がずいぶんと離れているようで、このくらいの年齢の弟妹がいるらしい。

 それに彼自身、人あたりが他の男よりは柔らかい。

 子供の相手には向いているのだろう。

 集会所の奥にあった布束を拝借し、子供を包むと暖炉の前に落ち着かせた。暫くは、その布と毛織物を巻き付け過ごしてもらうしか無い。

 村には、本当にちょっとした塵ぐらいしか残っていないのだ。

 他の死体から剥ぐにも、結局、洗濯後になる。

 その少女が着ていた服は、私が洗った。

 洗っても洗っても、水が黒く濁る。

 ようやくきれいになる頃には、生地が草臥れた。

 早く乾くようにと、暖炉の前に干す。

 今日の出発は見送られる事になった。

 それも当然だ。

 野盗の類いなら、女子供を攫って売り飛ばすだろう。

 もっと下衆なら、ここを根城にしたかも知れないし。

 手間だと皆殺しもあるだろう。

 だが、このオルタスで、女と子供は財産だ。

 大切という意味ではない。

 売れるのだ。

 だから、領主や支配者は領民の人別を必ず作るし、移動も制限するのだ。

 私は爺達の用意した鑑札もあるし、カーン達と一緒だから旅もできる。

 流浪民のように集団で移動しなければ、身の安全は自分ではからねばならない。

 どんなに本人が攫われたと主張しても、正式な販売書類があって元の村が消滅しており、領主の人別に名がなければ、商品として売られてしまうのだ。

 だから、オルタスの一般の民の考え方はこうだ。

 野盗が襲いかかって来た。

 男達は戦い迎え撃つ。

 戦える女は自衛する。

 けれど戦えない女と子供、年寄りたちは抵抗せずに隠れる。

 もし、発見され戦っていた男達が死んだなら、降参する。

 命だけはお助けを、まっとうなところへ売り払ってくれ、と。

 村に住んでいたであろう女子供、年寄りを身動きできない程度に斬りつけて、井戸に投げ込む。

 生きたまま井戸に投げ込み、大人の、それも獣人の男ぐらい力のある者でなければ動かせない石の蓋をする。

 これが野盗のする事とは思えない。

 村人を虐殺したなら、野盗であろうと判断した。

 けれど、長く苦しむように、若い女も子供も、足を斬られていた。

 出血で早く死んだ者もいたようだが、手足を折られた者、動けなくなるまで殴られた様子の者もいたそうだ。

 皆、女と子供だった。

 残忍で執拗だ。

 人は、これほど残忍になれるのだ。

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