第139話 窓の外 ③

 神に安らぎを求めるのは当然か。

 それでも苛つく男が側にいては、子供が休めない。

 どうするんだとサーレルを見る。


「これでもおとなしい方なんですよ、もいない」

「燃やす?」


 見落としていた事が気に食わないのか。

 世のすべてが気に食わないのか。

 イグナシオはずっと聖句を唱えていた。

 呪詛と罵りの言葉に聞こえるが、サーレルが言うには聖句らしい。


 そのサーレルも、イグナシオが虚空に卑語が入るを投げつけ始めると目をそらした。

 きっと私が知らない聖句なのだろう。

 この二人をこちらに残したのにも意味がある。

 サーレルは医官のエンリケについで、薬や人の体に詳しいという話だ。

 子供の世話にも慣れている。

 外見も北部人のような薄い色合いの髪と肌をしており、如何にもな獣人の男に見えない。

 そしてイグナシオは、調べる前にそうだから?らしい。

 焼くって、火葬するって事?

 一応見張りで護衛らしい。

 虚脱した子供がイグナシオの剣幕を不思議そうに見る。

 それに気がついたサーレルが、集会所の外へと追いやった。

 そうなると煮炊きする私の背後で罵り、じゃなくて聖句を唱えることになる。

 皆忙しいので、今日の煮炊きは私がしているのだ。

 ちょうど聖句が途切れたのを見計らい、お茶を淹れて渡す。

 イグナシオは、やっと呟きを止めた。そして近くにあった水樽に腰掛ける。

 ドカッと腰を下ろすと、お茶をあおり口を閉じた。

 薄い茶なのに、彼は苦い表情だ。

 まぁ笑顔になるような出来事でもない。

 私は静かになった男を他所に、料理を続けた。

 衰弱した子供も食べれるようにと、野菜を細かく刻み鍋に入れる。昼は根菜の汁物だ。


「遺体はどうするんです、誰が誰かもわからないでしょう?」


 気をそらそうと質問をする。

 と、やはり真面目に返事が返る。


「年齢や外見、死因や外傷などを記録し、死体は墓地まで運ぶ。幸いにも墓穴もある。

 一箇所に集めた後は、纏めて焼却するのだ。

 油薬という可燃性の液体で焼くのだ。この油薬は高温で火薬と併用して火力を調節する。今回は灰にならぬ程度、骨の状態まで火葬する。

 それを集めて墓場に埋葬する。

 個人の区別はしないで埋める事になるが、後で神殿から人を呼んで供養する。」


 人を焼くのにも時間がかかる。

 イグナシオは、誰に言うともなく続けた。


「人が死ぬのは慣れている。

 人を焼くのも慣れている。」


 墓地から煙が見える。

 それを見ながら、彼は続けた。


「やれるさ、俺もやれる。

 だが、武器ももたない女子供を、生きたまま井戸に埋める?」


 憎々しげに彼は煙を見ていた。


「やれるだろうさ、俺も屑だ。

 だが、すくなくとも殺してからだ。

 苦しめる必要がどこにある。」


 怒りに手が震えている。

 杯を握りつぶしそうだと思い、その手から抜き取った。


「村に確認にくるでしょうか」


 それにイグナシオは、ニィっと笑った。


「俺達が出ていく前に、戻ってきたらいいのにな。

 そうしたら、なますに刻んで鳥の餌にしてやるのに」

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