第717話 人の顔 ⑦

「その結論に至る理由をお願いします。」


 公爵の当然の疑問に、モルダレオは淡々と返した。


「では先ず、は本気の隠蔽工作をしている様子がありません。

 偽装も含めて痕跡が多数、にも、責任の所在をせずにすみました。」


 彼はカーザとバットに目をあてた。

 ジロリと睨み、口元が歪む。


「このにより、標的が何であるかの推論もできる」


 公爵は頬杖をつき考え込んだ。

 どこか面白いという風情。

 それに対し、カーザとバットは何故かカーンを見る。

 彼は何も反応を示さず、そんな二人を無表情で見返した。

 モルダレオは、フンッと鼻を鳴らす。


「誠に後手、傍観の末にしての結果、閣下が生きながらえたのは、閣下自身のお力でした。

 のは誰かであろうと理解できる話。

 また、これとは別に無策に対しての反応としては遅すぎる。

 しかし、これにて中央からのは棄却、愚挙の末で得るには滅多にない僥倖ですな。

 失礼、閣下への皮肉ではありません。

 多くの東マレイラ人の命が救われ、我々も無駄な汚名を獲ずにすみました。」


「私にもわかるようにお願いすますよ。少々長く寝ていたものでね」


「攻撃対象が他地域シェルバン以外の者ならば、時間がかかりすぎています。

 誰が被害者であるのか、その鑑別をする事になりました。

 簡単に言えば、病の疑いを持ったのです。

 ではどんな病か?

 調査を開始すると直ぐに、伝染病、感染する病の疑いが浮上しました。

 我々は更に病態にある者の調査をすすめ、複数の医師からの見解を得ました。

 病であり、寄生虫が原因。

 伝染するのか?

 人から人への感染は見られず、何かが媒介し体内の寄生虫に異常がおきた。

 そして寄生虫の異常が、人の肉体を損ない結果死に至らしめている。

 では、これは流行り病なのか?

 寄生虫が変異した原因は何か?

 感染者の推移、より詳細な情報を集める事となりました。

 結果、人為的な寄生虫操作、被害者の条件確定、それを経ての結論に至る。

 改変の痕跡です。

 改変であるならば、地域や人種を限定する事ができましょう。

 これが自然発生した病となると、これより後、さらなる変異が考えられます。

 改変という愚かな行為ならば、原因を取り除けば問題は解決するでしょう」


「改変、ですか」


「原因は改変であり、変異体とは病体であります。

 人間が作り出した病です。

 これにより、幸いにも問題解決ができると考えております。」


「幸いですか。

 違いが私にはわからないのですが。

 改変による病、何が違うのでしょうか。

 結果は同じでしょうに。」


「いいえ。

 結果はまったく違います。」


「私には良い話、でしょうか?」


「答えかねますが、説明を続けても?」


「どうぞ」


「人は病気になれば医術に助けを求めます。

 病に対処するには、先人の知恵から回答を得ようとするものです。

 似たような病ならば、そこから知恵を絞る。

 しかし未知の病に出会った時、その対処方法を探し治癒の効果を得る迄には、大変な労力と時間が必要です。

 不治であり死に至るという事もあるでしょう。

 そして今度のように、人族の長命な方々に広まる病の場合、多くの枝葉にあたる近似種は罹患する可能性がある。

 短命人族種、亜人系統でいえば、人族に近しい三種族、交易で繋がる外つ国の者にも広がる。

 猛威をふるう可能性がある。

 ならば、隔離や浄化などの手段を中央も考えねばなりません。

 しかし事が人体ではなく、体内に寄生する虫を改変し、その副次的な影響による結果であるならば話は違ってきます。

 回答があるからです。

 蓄積された知識が中央にはある。

 生物の改変、それも体内の寄生虫によって人体の改変を行う場合、標的は限定される。

 限定されるというより、汎用性をもたせる事ができないそうです。」


「技術漏洩があった可能性は?」


「寄生虫による土壌改良、汚染除去の技術は既に。」

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