第529話 鏡 ③

(それでは聞こう。

 墓を模した呪いとは、何を目的としている?)


 殉死、祈願、呪詛、封印。


 一瞬で知識が溢れる。


(そうだね。

 君が向き合うべき方向を示そう。


 この行いは、に無い事を、我々が明言しよう。

 この正しいとは、我らがという意味だ。)


 そもそも公主の墓への侮辱であり、弔いでは無いと?


(蛮行を望むほど、人の倫理は腐っているか?

 公主の弔いに殉死を望むと思うか?)


 公主の功徳、生前の行いを否定するのが目的か?

 それとも何ら関係の無い、別の蛮行の跡か。


方法で行った場合、この儀式の結果はどうなる?)


 封印?

 呪術の起点としては正しい、が、実際は?


 災厄の封印は、その封印物を囲むように置く。

 川の流れや、道のある場合、その手前に置く。


(枠組みは妥当、方法は邪道)


 封印ではない?

 これを二十年以上続けているのか。


(世の大きな動きを言おうか?

 公王代替わりが五十年まえだね。

 今のランドール王になったんだ。

 南領で反乱と疫病が、三十年前だ。

 これでいま現在の獣王、バルナバスが八代目宗主に代替わりする。

 東南の領地争いが始まったのが、その五、六年後だ。

 当時の政治状況で姫が嫁ぎ、二十年前に亡くなった。

 ちなみに、ドミニコが亡くなったのは、墓が完成した後だ。

 種族と寿命の違いで勘違いしてしまうけれど、この時間の流れは過去とするには、まだまだ最近の事なんだ。

 今度、その男に聞いてみるといいよ。

 彼の年齢と君の年齢。

 種族寿命と精神の成熟が、同じではないってことがよくわかるよ。)


 姫は、僅か数年で嫁ぎ先で亡くなったのか。


(腐土の始まりは、ここ十数年の間。

 姫が亡くなった頃、僕はまだ、王都にいたね。

 つまり、姫の死に、僕は関わっていないのさ。)


 何を言っているんだ。

 ...

 ...

 二十年前に姫は亡くなった。

 あの杭の日付は、それか?


(僕は二十年前と言ったよ)


 姫の死は、後?


 筋の通らない事ばかりだ。

 だが、そもそも死霊の告げた事に従い、ここまで来たのだ。

 全てに筋道を求めても無駄だ。

 正しい。

 何をもってして、正しいと言うのか?


 正しい?


 奇妙な笑いと小暗い気持ちがわく。

 そもそもグリモアの言う正しさとは、人の考える正しさではない。

 そして忌まわしい行いでさえ、神の秤を動かしはしない。


 と、は知っている。


 神の秤とは理の事。

 ことわりとは世を支えるのりである。

 その神のにそぐわねば、それは悪となる。


『あの呪い跡は、悍ましい行い故に悪なのか?』


(答えていいのかい?)


『理解した』


(はいはい、わかってるよ。

 今回は、お金を払えとは言わないさ。

 人間同士が殺し合っても、神はそこに善悪の値をつけはしない。

 だが、先程の見た呪いの跡は、穢れであり忌むべき事だと認める。)


 明け行く空に目を転じ、ゆっくりと瞬きをした。

 見ること、聞くこと。

 己が変化していくのがわかる。


 理と難しく言うが、この世界の事だ。

 先程のアレは、この世界を壊そうとする行いという事だ。


『怒っている?』


(あぁは、怒っているよ。

 人がいっぱい殺された跡を見たからじゃないよ。

 は、怒っているよ。

 だからね、オリヴィア。

 これから何があっても、怖くないよ。

 怖がらなくてもいいんだ。

 が、怒っているんだからね。

 は、許さないんだ。

 悪い事をしたら、罰をあたえなきゃね。

 の神様も、とっても怒っているんだよ。ふふふ)

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