残影の章
第689話 帰路にて
夜、風が強くなった。
湖畔に野営の天幕をはる。
村の者は、広場にてこのまま野営をと申し出てくれたが、それは遠慮した。
蔦の存在もあるが、何が災いを振りまくのかわからない。
公爵だけを残すのも、身の安全を考えれば無理だ。
私達は、当初の予定道理、湖の、姫の近くに天幕をはる。
コルテス公は、水際の倒木に腰を下ろしている。
そうして暗い水辺の先にある、白い影を見ていた。
蔦に巻かれた姿も、湖を囲む茂みに並べた。
彼らから証言をさせるべきかもしれない。
悪行を白状させるべきかもしれない。
誰も把握していない、非道な事も多々あるのではないか。
彼らから、罪業を搾り取るべき、かもしれない。
かもしれない。
けれど私は働きかけをせず、誰にも蔦を排除すべきなどという言葉は吐かない。
そして公爵が沈黙をし罪人をそのままにと考えるなら、もう、彼らなどどうでもいいのだ。
正義の求め方は、一つではない。
そして私は正義を求めてはいない。
所詮、人の正しさなど曖昧だ。
蔦の花が咲くのを楽しみにしている私。
勝手に朽ちよ、とする公爵。
まぁようするに、何もせぬ事こそが罰だ。
悪事を罪状を述べさせるなど、そんな慈悲を与えてはならないのだ。
四つ天幕をはる。
いつも、私とカーンは一緒だ。
男女の別は無いし、彼らの感覚は、貴人か兵士の区別だけだ。
私は子供、もしくは一部小僧扱いである。
客人と私はカーンと一緒に行動し、睡眠をとる兵士が順繰りに休んでは出ていく。
今回は、公爵と私、カーンの三人だ。
警備する関係でも一緒にいるのが、一番、だった筈なのだが。
ミアが半分、キレ気味に言い張った。
カーンも嫌がるぐらいに、食い下がり続けた。
当然、他の男性兵士は完全に腰が引けていた。
『貴人の未婚の女子は、男性と同じ場所で休んではいけません。
絶対にです。
えぇそんな事が許されてはなりません。
えぇ、えぇ、おわかりになりますよねぇ、閣下。
不遜な物言い?
えぇ、えぇ、そうですねぇ、そうです。
城塞にいらっしゃる本神殿の、ほら、巫女の方。
ご立派な巫女様に、戻ったら聞いてみましょうか?
はい、アタ、いえ、私から、こんな事がと、はい。
統括にもご連絡していただいて結構ですよ。
その後に、共同体の奥方様に、えっ?聞こえませんね。
懲罰、結構ですよ。
奥方様の方に雇っていただきますから。これから巫女様連れて、脱走?
違いますよ。そんなだいそれた話ではありませんよ。えぇ、城塞で巫女の方と合流して、えぇ』
前提条件が今更である。
雑魚寝してきたのに、今更、男女分けろとか。
まぁ公爵を慮るという意味ならわかるが。
「面倒くせぇ、また、女らで固まってろ。
公爵、ともかく、これにちょっかいかけるなよ。からかうと、この女どもが殺しにかかるからよ」
「残念ですねぇ、不愉快な事ばかりなので、姫と楽しいお話をしたかったのですが。」
「ミア、黙ってろ。ともかく、黙ってろ」
聞いたこともない、猛獣の唸り声の後。
男達は観念し、私もあきらめた。
そして現在、ミアの膝の上にいる。
火の側で暖まり、ミアが寝る時に一緒の天幕を使う事になった。
「まぁちょっとしたお芝居ですよ。まだ、よくわからない
背後で警備に立つザムが、嘘つけと呟いた。
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